稲村神社 滋賀県彦根市稲里町 旧・郷社
現在の祭神 伊邪那美命・豊受姫命・丹生大神
[合祀] 八幡大神 <八幡社>・大宮乃売命・稲倉魂命・猿田彦命 <稲荷神社>・大日孁尊 <御崎神社>・天照坐皇大御神 <神明社>・大山咋命 <日吉神社>・蛭子之神・恵毘須神・少彦名命 <山田神社>・武甕槌命 <鹿島神社>・大山祇神 <岩上神社>・大直日神 <村内神社>・豊玉姫命 <桜木神社>・大物主神 <金刀毘羅社>
本地 薬師如来

「稲村大明神物語」

中将入道殿、並大将殿、化度利生のためにや、神明神道とあらはれ給いて、和光利物の志深し、 外に稲村大明神と顕れ給ふ、多賀大明神と顕れ給ふ、 其本地を云へは、東土の教主、西方能化の如来なり、 大通仏の古は、兄弟の契不浅、正覚の今は東西に浄土をかまへて、苦海の群類をすくひ、像法転時の願深く、 末法濁乱の衆生は、一念十念摂取不捨と誓ひ、珍数垂跡、和光の日は凡夫迷情のいやしきことわさにましり、 多賀の大明神をそねんては、我氏子としては彼の明神帰依の者を罰し、結縁値遇の輩をそねみ、彼の宝前に詣へからすと、ちかひましましけると申つたへたり、
南無正一位稲村大明神、本地薬師瑠璃光如来

「社寺縁起伝説辞典」

稲村神社(渡辺信和)

 皇統の二位の大納言真方の娘は大変美しく、噂を聞いた帝から入内を求められた。 その教養のためにと琴を習うことになり、七十になる中将という琴の上手を召して習わせることとした。 ところが中将は姫君の美しさに恋し、強引に契りを結ぶ。
 姫君は懐妊し、真方の怒りによって中将と共に家を出され、関東に向う途次、蒲生野で美しい姫君を出産した。 中将が水を求めて不在の間に、姫君は下向する常陸守に見初められ、形見の万葉の草子とかとりの袖を残して連れて行かれる。 取り残された姫君は、土地の主に育てられる事になる。 中将は入道して平流山の麓の奥田で鹿を追って過ごしていた。
 五歳になって実の父が入道であることを知った姫君は入道を尋ねる。 入道は母のことを教え、自分は蝶になって姫を守るといって亡くなった。 姫君は蝶に導かれ、東へ向い、三河国の赤坂宿の遊君蓬莱と出会いそのもとで養われる。 十二歳になった時、常陸守が母姫君と伴って上京し、姫君を娘と知らずに同道するが、蒲生野で形見の品を見て親子と知り、上京する。 やがて姫君は入内し、祖父大納言の知るところとなり、末繁昌となった。 蝶となった中将は稲村明神、本地は薬師如来と顕れ、祖父大納言は多賀大明神、本地阿弥陀如来と顕れたという。