岩木山神社 青森県弘前市百沢 旧・国幣小社
現在の祭神 顕国玉命・多都比姫命・宇賀能売命・大山祇神・坂上刈田麿
本地
岩木山阿弥陀如来
鳥海山薬師如来
岩鬼山十一面観音聖観音

「岩木山百沢寺光明院」

奥州津軽華輪郡岩木山三所権現者 中央本地弥陀、 左峯岩鬼山本地観音、 右峯鳥海山本地薬師、 三峯三所一躰分身之垂跡権現ト崇メ奉ル者也。

「岩木山縁起」

恭惟昔在大己貴尊(一云大国主命又云大元命)降臨此国、在子一百八十人。 於是覧其高原之沃壌播種百穀、曰子遊内(子遊内訓禰阿曾部)其傍建華、記其功之(按今鳥居傍其旧跡乎)。 乃其田中有発光者、視之沼也。 名曰田光沼。 時龍女得珠於沼中而献于大己貴尊。 乃尊大悦、乃名曰国安珠、龍女又号国安珠姫。 故大己貴尊、或称大国珠尊、則幸国安珠姫而圧往来半日命(一名行来庄)。 居日祇宮、鎮法国内、声教遠乃嶋津国(島津国恐今蝦夷国也)。 其後海潮来流百沢、漸見称阿曾部森又歴年谷水尽去、阿曾部森一時山。 故又称高岳山云。 乃其嶺建祠、称磐椅宮。 於是崇奉国常立尊・大元命・国安珠姫之三神、号曰津軽一宮。 或以天日祇命、代国常立尊。(按天地本紀曰天日祇命在津軽一宮、又延暦廿一年賜三神加階、又岩木山一名日祇宮則為天日祇命是也、又中臣祓云、速佐須良比売者即国安珠姫也云)
[中略]
其最高処東面建祠、安金銅三仏。 此祠依然並立。 故人神而大懼也(三仏者弥陀・観音・薬師也所謂磐椅権現)

「武江年表」巻之六

天明元年 辛丑

七月朔日より回向院にて、奥州外浜百沢寺岩木山三社本地阿弥陀如来・観世音菩薩・薬師如来開帳。

小舘衷三「岩木山の山岳信仰」

 十二単衣を着たような岩木山は、昔から「女子山」と言われてきた。 これは形が美しく女性的だというばかりでなく、これにともなう伝説も女性中心である。 古くは田光沼の竜女が征服者の大己貴命に宝珠を献じて夫婦になって祀られ、続いて安珠姫が祀られたという。 そのほか、土地の三女神姉妹の一人が祭神になった、などがある。
[中略]
 伝説によると、開国大己貴命(大国主命-顕国魂命-岩木山神社の主神)が津軽に来て土地の豪族と結びついて土地を経営した話の中に、津軽は土地が肥えていて180人の子供を遊ばせるにいいところだ、と見え、田光の竜女が献上した玉を岩木山に祭り、さらに夫婦になったこの二神を岩木山頂に祭って磐椅宮と称した、とあるのは、自然崇拝と農耕神とが結びついて信仰され、岩木山を神体山として信仰して行く様子がうかがわれる。 つづいて、密教宗派の伝播が本地垂迹を持ち込み、巌鬼山-十一面観音、鳥海山-薬師の寺社信仰として形をととのえ、さらに百沢にまとめとして、阿弥陀を中心に岩木山三所大権現が祀られるようになったのである。 この三所は岩木山の頂上が三つの峰からなり、台密系の熊野三山信仰にぴったりであったのですんなり定着したものであろう。
[中略]
 大石神社の本地仏が十一面観音ということは非常に重要なことで、岩木山三所大権現は最初、北麓の十腰内の巌鬼山西芳寺観音院にはじまり、神官の長見氏は数百年続いた古い家柄である。 本尊は十一面観音であり、「神仏混淆神社調帳乾」(明治三年)にも、
……慶長九年、信建公(為信の長男)様、本尊十一面観音の仏像並に鰐口等を御寄附……
とあり、巌鬼山の主神が多都比姫命(田光の竜女)で、本地仏は十一面観音である。 山頂の奥宮には三神・三仏が祀られていたというが、主尊は十一面観音であった。 後に聖観音となったが、元禄十四年の「岩木山境内附什物記」にも、
一 岩木山御室 ……御神体十一面観音、金像御長一尺二寸
一 山門御本尊十一面観音 木像長六尺
とあって、岩木山信仰は観音-十一面観音を出発点にしている。
[中略]
 次に信政までに整備された岩木山三所大権現への参拝の実態を図示すると第一図のようになる。 鳥居の前で拝むと、御山体・山上仏・本殿、御宮殿、山門の諸仏を一度に拝むことになる。
山頂の御室  最初の本尊は十一面観音であったが、後に聖観音になった。
 作者・年代共に不明、地方仏師の作で、かつての津軽の民衆の息吹がかかった貴重なものである。 神仏分離の時に移されて、現在大鰐町の専称院にある。
御山体  台密系の熊野三山と同じ形で、三つの山体に三神仏を祀って、岩木山三所大権現として、山自体を御神体として信仰する。
 ・十一面観音(国安珠姫命)(多都比姫命)
 ・阿弥陀如来(国常立命)
 ・薬師如来(大己貴命)
本殿  現在地の西方にあったものを、貞享年間に信政が此処に移して新築したもの。 祭神は秘神とされていたが、三所大権現の三神は左図(多都比姫命、国常立命、大己貴命)のようであった。
 明治以降は、宇賀能売命、顕国玉命、大山祇命、坂上刈田麿、多都比姫命の五神である。
大堂  慶長八年為信建立、中にあった御宮殿(信義建立)三尊仏・四天王は信枚が寄進。 これが岩木山の実質上の本尊であった。
 神仏分離により、御宮殿・三尊は弘前長勝寺に移され蒼竜窟内に安置され、お山参詣の帰りに立寄って拝んだ。 四天王と山上仏は大鰐町専称院に奉祀されている。
山門  寛永五年信枚造立。 本尊は十一面観音、五百羅漢が祀られていた。 神仏分離で十一面観音は行方不明。 五百羅漢のうち約100体は長勝寺にある。(安寿姫と厨子王像を含む)