釜臥山嶽大明神 青森県むつ市大湊 釜臥山菩提寺(曹洞宗寺院)の奥院
本地 釈迦如来

菊池展明「円空と瀬織津姫」

恐山信仰と地神供養──円空十一面観音のおもい

 恐山は「釜臥山菩提寺」として再興された。 この山号が表しているように、下北半島の最高峰である釜臥山(879メートル)は、恐山の「奥の院」とみなされ、頂上には現在「釜臥山嶽大明神本地法身仏釈迦如来」がまつられている。 この山は、円仁が籠もった山との伝承もあるが、本堂(地蔵殿)の前の宇曽利山湖の対岸正面に聳える山で、恐山八峰の主峰である。 この「釜臥山嶽大明神」と呼ばれる神が恐山の「地神」とみられる(円空「勤行次第手控」では「南無釜臥神」と呼称)。
[中略]
 恐山では、不動尊と地蔵尊は一神二尊の異称同体として現れる──この二尊を結ぶ信仰ラインの先には釜臥山(の釈迦如来)が位置していて、いいかえれば、北方最奥の地蔵山・不動尊の視線は、本堂・地蔵尊の背後から南方の釜臥山・釈迦如来を見据えるという信仰ラインを形成している。 案内が、「本尊伽羅陀山地蔵大士を中心に、奥の院地蔵山不動明王、奥の院釜臥山嶽大明神本地釈迦如来が一直線上に奉納され三者が一体であること」、あるいは「釈迦地蔵不動一体義」を主張するのも、この信仰ラインを述べたものである。
 地蔵尊は、釈迦入滅後、弥勒菩薩の出現までの無仏世界で、この世の救済仏として時間をつなぐ仏という役割をもつものだが、この地蔵尊背後の不動尊が、中間の地蔵尊と一体となって南彼方の「釜臥山嶽大明神本地釈迦如来」と対面していることは、これは「釜臥山嶽大明神」という地神と対面していることと同じであろう。 このことは、かつて釜臥山を釈迦山と見立てた神宮寺(釈迦山神宮寺、明治期以降は八峰山常楽寺)の本尊が、その変遷はあるものの不動尊であることがよく示唆している。 円空は、この旧神宮寺・常楽寺(むつ市大湊)に、釈迦如来像を一体残していて、これは、明らかに「釜臥山嶽大明神本地釈迦如来」を意識した彫像であろう。