賀茂神社 山口県柳井市伊保庄近長下 式内論社(周防国熊毛郡 熊毛神社)
旧・郷社
現在の祭神 三毛入野命・別雷命・玉依姫命
本地 阿弥陀如来・釈迦如来・弥勒菩薩

「防長風土注進案」(上関宰判 下巻)

伊保庄 賀茂大明神[LINK]

賀茂大明神 在近長
          惣宮司 無動寺
          神主  藤井周馬
          権神主 脇村淡路
鎮座
 人皇七十三代堀河天皇の御宇、寛治元丁卯九月朔日山城国下賀茂ヨリ勧請し奉る、 其後御木像三体願主小早川隆景公小河与三右衛門児玉内蔵之丞就方永禄六年亥八月二十九日と台座に記シ有之候事
祭神
 三毛入野命両部ニ付御本地弥陀釈迦弥勒の木像なり
 神武天皇
 姫踏鞴五十鈴姫命
  右玉殿三ツ扉

「柳井市史 各論篇」

郷村氏神の祭祀[LINK]

伊保庄賀茂神社 伊保庄字近長
 伊保庄近長と阿月の相浦に賀茂神社が鎮座するのは、伊保庄が京都・賀茂別雷神社の荘園になったからである。 伊保庄賀茂神社は今の伊保庄、阿月(相浦を除く)、平生町の秋森および小郡の氏神である。 その鎮座は防長風土注進案によれば、1087年(寛治元)、京都下賀茂社勧請と記載されているが確証はない。 恐らく誤りであろう。
 伊保庄が賀茂社の荘園として確認されたのは、それより六年後、堀河天皇の寛治七年(1093)宮中武徳殿の行事である「競馬の式」を賀茂社において移し行われ、その馬料として諸国の荘園二十ヵ荘を寄進せられた。 伊保庄はその一荘であり、伊保庄の名が史上に見えるのはそれ以来のことである。 賀茂神社の伊保庄鎮斎もその後のことに相違ない。 当社の祭神はその後において熊毛神、三毛入野命が合祀されてつぎの三座となった。
  三毛入野命
  別雷命
  玉依姫命
風土注進案はこの祭神を、三毛入野命、日本磐余彦命、姫鞴五十鈴姫命の三座としている。 これは注進案の編纂された天保の末年、1840年頃に「上賀茂は神武天皇、下賀茂は瓊々杵命を祀る」という俗説があったのに従ったもののようであるが、社家の古記録はいずれも前掲の三神となっている。
 この賀茂神社の祭神は、種々の問題をはらんでいる。 風土注進案編纂当時、総宮司職無動寺書出しの記録は採用されていないが、すこぶる古伝を伝えている。 伊保庄賀茂社に熊毛神三毛入野命を合祀する縁由について、つぎのように記している。
当社(伊保庄賀茂社)は熊毛之神社、往古当荘南の山の岳にありて御座山又は大座山と云、社の所を伊保岩と云、其後西脇に遷す、今つつじヶ殿と云、又其後西の脇に遷す、今に小熊毛と云、其後只様社頽廃有て無きが如く、 依而三毛入野命は賀茂明神の兄神たるによって当社に合殿と祭込、 今熊毛の神社勝間八幡と申し、已然異論有之、石城山より辰巳に当って熊毛の神社ありと彼山の旧記に相見へ、至極不分明、古来より申伝事に候、
 文中に熊毛神は賀茂神の兄神とあるのは、賀茂の祭神を神武天皇とする俗説によるものである。
[中略]
両部神道時代の総宮司職は、はじめ佐賀村の東光寺、後に伊保庄南村(阿月)の無動寺がこれに代った。 本地仏の弥陀・釈迦・弥勒の三尊の木像は1563年(永禄六)八月二十九日、領主小早川隆景をはじめとし、児玉就方、小川余三右衛門および東光寺の寄進したものである。 この仏体は明治維新後の神仏分離にあたり、無動寺が引き取って同寺に安置されている。

神仏習合[LINK]

 仏像を神体とすることは、日本紀畧、延暦十二年(793)十二月条、山城国正訓社の仏像を大原寺に遷した記事が初見であるが、柳井地方における神仏習合の初期の状況は明らかではない。 伊保庄賀茂神社の神体に仏像を安置したのは、1563年(永禄六)八月二十九日、小早川隆景らが弥陀・釈迦・弥勒の三尊を神体として寄付した由が台座に記されている。
[中略]
なお、神仏混淆時代における市内各神社の祭神仏体を示すと次の通りである。
位置 神社名 祭神 仏体 別当寺 摘要
伊保庄 賀茂神社 三毛入野命
別雷命
玉依姫
弥陀
釈迦
弥勒
初め 東光寺
次に 無動寺
永禄六年(1563)八月二十九日仏体造立
社僧助成寺、般若寺
八幡宮 神功皇后
応神天皇
三女神
観音
弥陀
勢至
無動寺  
相浦 賀茂神社 神日本磐余彦尊
武津見命
神武天皇
瓊々杵命
玉依姫命
別雷命
阿弥陀 木立像 一尺余
弥陀 金仏座像 六寸
無動寺  
土穂石 八幡宮 三女神
応神天皇
仲哀天皇
神功皇后
弥陀画像 福楽坊  
柳井 代田八幡宮 応神天皇
仲哀天皇
神功皇后
三女神
玉依姫命
弥陀木立像 六寸
観音 仝
勢至 仝
普慶寺  
白潟 春日神社 天児屋根命
武甕槌命
経津主命
姫大神
天押雲命
外ニ客人御前
釈迦木像 七寸
薬師 仝
地蔵 仝
観音 仝
 
文殊木像 八寸
普慶寺  
中馬皿 竜岩神社 伊弉冊尊
速玉之男命
事解之男命
釈迦 普慶寺  
日積 八幡宮 誉田天皇
気長足姫
足仲彦天皇
弥陀 金仏 五寸
釈迦 金仏 四寸
観音 金仏 二寸
別当寺の記載なし  
余田 八幡宮 応神天皇
仲哀天皇
神功皇后
十一面観音 木立像四寸 福楽坊