三船神社 |
和歌山県紀の川市桃山町神田 |
国史現在社(御船神) 旧・村社 |
「紀伊国名所図会」巻之三
御船明神社
神田村にあり。
荘中の氏神にして、社殿美麗なり。
例祭 正月十一日・三月三日・九月十一日。
流鏑馬あり。
又七月十六日に、神舞とて、氏子中神前に集りて、四箇村次第々々に躍る事あり。
甚古風にて、唱歌もいやしからず。
近郷より観者群集す。
摂社 二、丹生・高野。
本地堂 本社の右にあり。文殊菩薩を安ず。
御影堂 弘法大師の像を安ず。
神楽所 本社の左にあり。
舞堂 本社の前。
庁 本社の左。
神庫 本社の左。
鐘楼 神庫の傍にあり。
銘に云く、『淡州国分八幡宮大工重吉文明九暦丁酉十二月一日願主社僧等』とあり。
又傍に『紀州安楽川荘三船宮明応五天五月三日』とあり。
鳥居 本社まで一町許。
中門 本社の前。
御湯釜 銘に『安楽川荘三船御宝前御湯釜永正十一年甲戌九月吉日□□敬白』。
神宝 太刀二振。
【三代実録】清和帝貞観三年七月二日甲戌。授紀伊国正六位上御船神従五位下。
当社は【本国神名帳】に載せて、鎮座の来由久遠なり。
天正年間応其上人再建の棟札に、本社は御船明神と記し、左右両社は日域大小神祇并に本国神祇の社と記せり。
近年説をなすものありて、当社の祀神を木霊屋船神とす。
其名は地名の安楽川を以て麁香の転語とし、【古語拾遺】に見えたる御木麁香といふ事より、後世偽造の神書等に因りていひ出せるなり。
然れども麁香は名草郡宮郷の地にて、当郡にあらず。
はた荒川の名、既に記紀に見れていと古し。
何ぞ麁香の訛とせん。
其説の誤なること知るべし。
按ずるに、【皇大神宮儀式帳】に、御船神社一処。称大神乃御蔭川。神形無。倭姫内親王代定祝といふ事見えたり。
当社も其神霊を遷し祀れるか。
地名を荒川といひ、社を御船といふ、深き由緒あることなるべけれども、古伝絶えて考ふべきよしなしを恨とす。