三芳野神社 埼玉県川越市郭町2丁目 旧・県社
現在の祭神 素盞嗚尊・奇稲田姫命
[配祀] 菅原道真
[合祀] 誉田別尊(応神天皇)
本地 十一面観音

「河越三芳野天神縁起」

大日本国東海道武蔵国入間郡河越三芳野天神は、平城天皇大同年中に此社を建立すと云伝たり。 氷川の明神と一躰なれハ八岐の大蛇を勧請す。 八岐の大蛇ハ素盞烏尊のたけき心の一念動き給ふ変現也。 宝剣も其尾の中より出たる事なれハ、霊験の甚きこと申も恐れ有へし。 彼大蛇は出雲の簸川上にあらハれたるによりて氷川とも申にや猶尋へし。 昔ハ当国の大社にて足立郡に鎮坐すと延喜式に見へたり。
[中略]
中比の事なるに、神託ましましけるハ、我ハ本是地神也といへ共、 法華経の法味をなめて既満足する故に、浄土に往生して遊楽自在なりと云々。 是より本地をあらハして正観音の功徳有故に、地蔵菩薩其左右にたちならひ給ふ。 和光同塵ハ結縁のはしめ八相成道ハ利物の終といへる事ハ是なるへし。 昔本地堂に観音を本尊とし地蔵をわき立とす。 観音ハ阿弥陀にかハりて極楽補所の菩薩也。 地蔵は六道能化の菩薩なれハ一切衆生を極楽にむかへとりて六道にまよハりしとのちかひなるへし。 観音ハ男躰と現し地蔵ハ女躰と現し給ふ。 ありかたき事ともなり。 当社へ勧請して後示現の告有て、十一面観音とあらハれたまひ、不動明王・毘沙門天王を脇立とす。 不動明王は大日如来慈悲忿怒の変相にて悪魔を降伏し、 毘沙門天王ハ本地観音にて一切の人に福を与へまします。 しかのミならす専勝軍の神とあかむる事ハ昔大尼の天子此神にいのりたまへは、 西蕃の乱に神兵数百千騎空中を飛かけり余多の敵を悉討滅す。 かかる不思議奇瑞有によりて此神を崇敬する事諸国にあまねし。 惣て諸仏・菩薩の名ハ替れとも内証ハ皆一躰分身なるへし。
[中略]
何の年にか北野の天満天神を勧請し此社内に同敷いハひこめ奉る。 北野の本地も十一面観音にてわたらせ給へハ、 其名ハことなりといへとも本地一躰にて侍にや。 衆生済度のために種々様々の形をあらはし給ふ。 観音の変作にて仏神の方便なりと知るへし。

「新編武蔵風土記稿」巻之百六十二
(入間郡之七)

河越城并城下町

天神社

本丸の東の方巴堀の外にあり、 三芳野天神と号す、 社領二十石の御朱印を賜はる、 縁起を閲に足立郡大宮町の氷川大明神は大社にて、国中の鎮守なれば爰に勧請すと、 又云中古神託ありて法華の法味に満足するゆへ、浄土に往来して極楽自在なりとありけるゆへに、 本地堂に観音を本尊として地蔵を脇立とす、 後に示現の告ありて十一面観音を本体とし、不動毘沙門を脇立とす、 又深秘の神体なりとて古き銅の扇あり、其の図を左に出せり、[図略] 又いつの頃か北野天満天神を勧請して、此社内に祝ひこめり、 これは北野の本地も同体なれば、かくの如く相殿として祀りしならん、
[中略]
本社 南方なり、 神体の銅扇模様は、雲形に半月薄万年青の様なる草二本ある図なり、その図は右の如し[図略]