天満神社(長瀬天満宮) 佐賀県佐賀市高木瀬町長瀬  
現在の祭神 菅原道真
本地 観世音菩薩

「肥前古跡縁起」

鹿路山

又鳥羽院絹巻の里は古宮の渡をさせ給ひたる旧跡也 即鳥羽院の御時とかや所の名に唱伝へ侍る、 中比此里に貧人ありけり独姫を指ていたふかしつきけり、 此女幼して母にをくれ父と住ひけるが後継母けしからず当り悪しければ娘本意なう思て明暮打嘆き居りけり、 或夕暮母の前に茶湯して観音の名号を唱へ涙を流し悲みけるを継母見て、汝何を悲む其年月空しく女の業をだにしもせで行ひするまどひ者に成なんつら憎し憎しよて折節此女の立置たるはた板を背に結付行ゑなくぞ追出けん、 娘泣く泣く行程に何くとも知らぬ野原に松の一村茂りたる中に灯幽かに見えければ此女立寄り見たるに最も美しき女の独り居給ひける、
[中略]
我は是れ観音也 汝が母世に在し時我を深く信じ明暮れ心の中に頼を掛し其功徳空しからず汝を設けしが共無常の理に遁れずして身まかり侍る、 然し其志の真朽す汝を憐み今迄斯く育つたてつるぞ必ず我を忘るゝ事なく父にも母にも孝行をなすべし、 斯る宿縁により汝幼侍りし時より我をも常は信じけるぞとて打失せ給ふ、
[中略]
夫より此の女の影を作り観世音と崇め彼継母の結付し巾巻を瑞光となして据へ奉る 彼山は里遠くして人の通ひも稀なりとて後に此の観音を守り奉り長瀬村の天神の本地とぞ崇め奉りけり