「週刊神社紀行 38 岩木山神社」
庶民の祈りと神々(34) 若木山大権現絵像
当「若木山大権現絵像」は種痘によって疱瘡が予防できなかった頃の、庶民の祈りを伝える珍しい護符である。
画面中央に「若木山大権現本地大日」と記し、その下に禅定印を結ぶ胎蔵界大日如来坐像を置く。
右側に「垂迹、大日霊女(孁カ)貴尊」と記し、大日孁貴尊の垂迹形である雨宝童子の立像を配す。
つまり大日孁貴尊は別称を天照大神といい(『日本書紀』神代上)、本地は大日如来なのである。
対して左側に「末社、牛頭天王」と記し、疫神の祇園牛頭天王を描く。
逆立つ頭髪の中に牛頭を置き、憤怒の相を示し、左手に羂索、右手に鉞を持って沓を穿いて立つ姿である。
三像ともに雲座にのり、特に大日如来の蓮華座の下辺に配される雲座は、当図が仏教の来迎思想の影響によることを示している。
また、雲と雲の合間に岩群を散在させて、当図像に威厳を添えている。
下方に「別当石宝院」と大書する。
当図の若木山は山形県東根市の平野にあり、山頂に大日孁貴尊を祀る若木神社が鎮座する。
若木神社は東北に多く鎮座するが、当社は「日本一社若木大権現」と称し、中心的な位置をしめた。
日本武尊が若松を岩上に植えて天照大神の御霊代としたのが創始という。
後に空海が松と岩を霊木霊石として山麓に祀り「若木山大権現疱瘡守護神」とした(寛政二十二年の縁起)とか、最澄が当地に一社を建立し「疱瘡守護神日本一社若木大権現」と称した(文化七年の縁起)等とも伝えている。