染井稲荷神社 東京都豊島区駒込6丁目 旧・無格社
現在の祭神 保食神・大山祇命
本地 十一面観音

高野進芳「稲荷神の習合と俗信」

 観音経の根本観音の妙用を表現せんがために生じた別在の神格には、前述の如意輪観音の外に、十一面観音がある。 この観音も、また六観音の中の一尊であり、この観音を稲荷の本地仏となされたところがある。 東京都豊島区駒込六丁目の鎮座の稲荷神社(旧称染井稲荷)は、祭神が保食神と大山祇命であるが、本地仏として石造の十一面観音像が二体安置してあった。 その中の一体は、背面に、地蔵菩薩の種子〔梵字 ha〕を刻し、その下部に「染井村稲荷大明神御本地」と彫り、蓮座の部分に「造立者、於松女、伊藤猪兵衛、西福寺住祐心、延宝二年二月吉日」と彫りつけてあり、この石像を納めた桧木造の覆箱の正面には、「五社稲荷本地十一面観世音菩薩」と墨書してある。
[中略]
 前述の「染井稲荷の本地仏」の背面の銘によって、「稲荷神、地蔵菩薩、十一面観音」が習合されて信仰されていたことが知れるが、稲荷と地蔵菩薩の混同は、『地蔵本願経』に、地蔵菩薩を供養する十種の功徳を挙げて、
「土地豊穣・家宅永安・先亡生天・現存益寿・所求遂意・無水火災・虚耗辟除・杜絶悪夢・出入神護・多遭聖因」
の十利益がそれであると記しているが、この十利益が当時の稲荷信仰と合致した故であろう。