樽前山神社 北海道苫小牧市宮前町3丁目  
現在の祭神 瀬織津姫神
本地 観世音菩薩

菊池展明「円空と瀬織津姫」

蝦夷地の観音たち──背銘が語る円空の足跡

「たろまへの(たけ)ごんげん」は、苫小牧地方の霊山・樽前山(1041メートル)の神に捧げられた座像観音である。 樽前山神社の由緒案内によると、樽前山は、アイヌ語で「タオロ・マイ・エトコ・ヌプリ(樽前川の水源の山)」とのことで、山麓の錦岡樽前山神社において、この円空の観音像は、現在もご神体として大切にされている。 しかし、この錦岡樽前山神社には、きわめて重い歴史のドラマが秘められていた。
 明治の神仏分離に伴って、この地方の神社(神体)調べをおこなったのは、札幌神社(のちの北海道神宮)権宮司兼開拓使・菊池重賢だった。 彼は『明治五年壬申八月・十月巡回日記』の「樽前神社」の項を、次のように記していた。
樽前神社  木像 仏体 改祭
      観音裏ニたろまゑのたけトアリ年号訳兼。
祭神瀬織津姫ト申伝有之候由ノ処、従前当社ハ樽前山神ヲ祭ル趣、瀬織津姫ハ海神祓戸神ニテ山海ノ相違、改祭ノ上ハ祭神判然取調可伺事。
勇払 白老 千歳三郡産土神ト奉斎シテ郷社ト被為成度段出願有之。
   祠白木五社造 前巾六尺 横二尺 幣殿九尺ニ三間
   拝殿間口三間半 奥行二間半 神門一基
   社地間口七間 奥行十六間
   起元不詳 元治元甲子年再営、以前旧請負人私祀、其後同所出稼人中寄附由。
同所漁場出張番家守護神
 樽前神社の神体である仏体の木像は「観音」で、裏に「たろまゑのたけ」とあった。 いうまでもなく、これは円空が彫像したものである。 円空の彫像が、円空おもうところの神の「神体」として大切にされてきたというのは偶然ではあるまい。 この「神体」の観音は「改祭」のため廃仏となるところを、この観音は生き延びて現在に至っている。