大峯本宮天河大弁財天社(天河神社) 奈良県吉野郡天川村坪内 旧・郷社
現在の祭神 市杵嶋姫命
[配祀] 吉野坐大神・熊野坐大神・南朝四代(後醍醐天皇・後村上天皇・長慶天皇・後亀山天皇)
本地 釈迦如来 文殊菩薩 如意輪観音 千手観音

「金峯山秘密伝」巻上

金峯山大峯習の事

今大峯且く胎蔵曼陀に配すと雖も、両部不二の故に亦大峯の中に両部を建立して、定慧の諸尊を安す。 不二妙行を顕して、即チ両部の冥会を成。 所謂る大峯の中の神山より已北は此れ金剛界也。 神山より已南は即胎蔵界也。 神仙の峯に五神仙有。 此れ両部の五智五仏の精神なるか故に神仙と云。 南北の端は此胎蔵権現金剛蔵王、此れ其の両部也。 両山の中間神仙の下釈迦嶽の麓に一の社壇有。 此を天河の神と名、弁才天と号す。 此則南北不二の深行、蘇悉地の曼荼羅也。 大弁功徳天は此宝部の大将、護国利生の首領なり。 具には最勝王経に見タり也。 此れ女形而弓箭を持す。 此れ男女冥会の相、胎金不二の像也。 之に依り此社を吉野熊野の宮と名。 亦天の河と号す。 天は即チ国天、河は此円水、天は万相を摂し、水は万物を生す。 此宝部の所管、自然の名也。

天川弁才天習の事

今此の大弁財功徳天女者、此れ両部冥会の秘尊、蘇悉地の妙体也。 是の故に両部一身に合して定慧一心に積也。 内証は此第八地の薩埵、不動地の菩薩也。 外用は即乾達婆女作楽歌舞の天女也。
[中略]
今尊四弁を以て本誓と為故に、我朝日本に四唯処をとて以四弁の徳を表する也。 即一には此の天河弁才天、法弁才を宗と為。 二には竹生島弁才天。是れ義弁才を本と為。 三には江島の弁才天。即詞弁才を宗と為。 四には厳島の弁才天。此れ弁弁才を本と為。 此れ我国無双の勝地速成悉地の霊所、此の中今天河の弁才、即最初本源にして、金峯熊野不二の妙体、此れ難思の勝地也。

本地習の事

此の天の本地に四説有。 即釈迦・文殊・如意輪・千手の四仏也。 各其習有。 本地深奥なれは利生尤も甚妙也。

「天川村史」

長谷川誠「天川村の美術工芸」

天川弁才天の本地仏が千手観音像であることは、 『大乗院寺社雑事記』寛正二(1461)年六月七日の項に、 「(前略)本仏弁才女ハ二歳計ノ人許也、 座十五童子各座躰(六寸計ナリ)、 同御本地千手造本仏ノ右方ニ在之、大師造愛染王左方ニ在之、 事了後閉帳、(後略)」 とあって確かめられる。