湯泉神社 兵庫県神戸市北区有馬町 式内社(摂津国有馬郡 湯泉神社〈大 月次新嘗〉)
旧・郷社
現在の祭神 大己貴命・少彦名命・熊野久須美命
[合祀] 軻遇突智命
本地
湯山権現薬師如来
三輪明神毘盧遮那如来
鹿舌明神千手観音

「摂津名所図会」巻之十

温泉神社

湯山にあり。 【延喜式】に出ず。大、月次、新嘗。 今湯山三所権現と称す。 祭神三座。中央熊野権現。左三輪明神。右鹿舌明神なり。 此神は郡内羽束山香下明神にて、神体は少彦名命なり。 三座の中三輪明神を当山の地主神とす。

有馬温泉

又聖武帝の御時、僧正行基、昆陽池の側を往来し給ふとき、乞食の病者あつて曰く、われ総身に悪瘡を生ず。 これを患ふる事年あり。 伝へ聞く是より北方に当つて、有間の山間に温泉あり。 願くはわれを誘引て入浴なさしめ給はんや。 行基即かの病者を背に負うてこゝに来り、温泉に入らしむ。 病者又曰く、此瘡瘍五体に蔓りて焦げ爛れ、肉中に虫生じて、痒き事堪へがたし、上人若我膿血を舐り、虫を吸ひ取り給はゞ、少し苦悩を忍ぶべし。 行基是を厭ひ給はず、病夫が悪瘡を悉く舐りたまふ。 其時此乞食、忽金色荘厳の仏体と現じ、善哉善哉、我はこれ温泉山の薬師仏なり、上人の精誠心を試んが為に、仮に病躯となりしと、言ひ已つて紫雲に乗じ、東方に飛び去給ふ。 行者感歎止まずして、即如法経を書写し、泉底に埋み、又等身の薬師の尊像を刻み、山麓に一宇を建てゝこれを安置す。 今の薬師堂これなり。 かの病夫に与へられし残魚を、昆陽池に放ちたまふ、忽蘇りて一目の金魚となる。 此山に三神あり。 一に曰く湯山権現は薬師仏、二に曰く三輪太神は毘盧舍那仏、三に曰く鹿舌明神は千手大悲なり。 爾来、入浴の病者速に平癒する事、これみな此神仏の加彼力によるなり。