与喜天満神社 奈良県桜井市初瀬 旧・郷社
現在の祭神 菅原道真
本地 十一面観音

「大和・紀伊 寺院神社大事典」

与喜天満神社

 与喜山(天神山)の南西中腹に鎮座し、初瀬川対岸には長谷寺がある。 旧郷社。 祭神は菅原道真。 与吉社とも書く(「大乗院寺社雑事記」明応四年十月二日条、菅家本「諸寺縁起集」)。
【創建】 「長谷寺霊験記」によると、天慶九年(946)天満天神の化身神殿太夫武麿が長谷の滝蔵社・観音堂(現桜井市)などに参詣したところ、滝蔵権現が伽藍の守護を天満天神に譲り、東の因曼荼羅の峰は断惑修善に良き地なのでその峰に住むよう命じたため、天神は雷神となって峰に降臨、与喜大明神と称したといい、新地主神と称した。 元来、長谷地方は水神(雷神)・農業神である滝蔵権現や山口神の霊地であり、自然神としての天神信仰が強くあった。 一般に天神信仰は菅原道真を祀る天満天神信仰へと発展し、平安末期には天満天神の本地を観音とする思想が流布していた(愚管抄)。 与喜天神も長谷寺側が同寺観音の化身として、しかも寺の地主神として雷神信仰にも適合した形で奉斎したものであろう。 神像には「奉造立 与喜大明神御正躰一躰 勧人善阿弥陀仏 正元元年(己未)五月八日」の墨書があり、鎌倉初期には鎮座が確認できる。 像は忿怒の形相をした男神(怒天神)坐像で、像内には長谷寺十一面観音を陰刻する。