#怪談牡丹燈籠 で新幡随院の良石和尚が新三郎に貸し与えた「雨宝陀羅尼経」と海音如来について。
圓朝の速記本では以下のように書かれています。
「遁れ難い悪因縁があり、どうしても遁れられないが、死霊除のために海音如来という大切の守りを貸してやる、

— k.hisadome (@HisadomeK) November 4, 2019

(中略)それから又こゝにある雨宝陀羅尼経といふお経をやるから読誦しなさい、此の経は宝を雨ふらすと云ふお経で、是を読誦すれば宝が雨のように降るので、慾張たやうだが決してそうぢやない、是を信心すれば海の音という如来さまが降つて来るというのぢや

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(続き)この経は妙月長者といふ人が、貧乏人に金を施して悪い病の流行る時に救つてやりたいと思つたが、宝がないから仏の力を以て金を貸してくれろと云つた所が、釈迦がそれは誠に心懸の尊い事ぢやと云つて貸したのが即ちこのお経ぢや」

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『密教辞典』によると、「雨宝陀羅尼経」は不空訳で「世尊が妙月長者に富を得た財を一切衆生に施すための雨宝陀羅尼を説く。読誦の功徳で財宝・穀類が雨のように降り、病気・飢餓の一切災禍が除けると説く」経典です。ただ、良石和尚の言う「海の音という如来さまが降つて来る」というのは疑問です。

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不空訳「雨宝陀羅尼経」によると、世尊(釈迦)は過去阿僧祇劫前に「持金剛海音如来」と名づく仏に遇い、この仏から雨宝陀羅尼を受けました。しかし、この仏が「降って来る」という記述は見当たりません。https://t.co/j5MHZvSYhq

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「雨宝陀羅尼経」の異訳には玄奘訳「持世陀羅尼経」と法天訳「大乗聖吉祥持世陀羅尼経」が有ります。過去仏の名は玄奘訳では不空訳と同じ、法天訳では「持金剛海大音声如来」)ですが、やはりこの仏が「降って来る」という記述は見当たりません。https://t.co/03GqWrXQUghttps://t.co/GB2ga5kF88

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『密教大辞典』によると、「雨宝陀羅尼経法」は求福・除病に修する法で、本尊については宝生如来・釈迦如来・持世菩薩とする説が有りますが、持金剛海音如来本尊とする説は見当たりませんでした。

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「雨宝陀羅尼経法」本尊の諸説
・宝生尊を本尊とす。此法は宝部の徳なる故なり。
・釈迦如来を本尊とす。(中略)是れ宝処三昧に入れる釈迦を本尊とする義なり。
・持世菩薩を本尊とす。此尊は衆生に財宝福徳を授与し賜ふ尊にして、此経は此の菩薩の内證を説くが故なり。

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持世菩薩は雨宝陀羅尼(持世陀羅尼)を尊格化した菩薩です。
不空訳「雨宝陀羅尼経法」・玄奘訳「持世陀羅尼経」・法天訳「大乗聖吉祥持世陀羅尼経」には出て来ませんが、施護訳「聖持世陀羅尼経」には、その尊容や曼荼羅が説かれています。https://t.co/ohFGngizJh

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余談ですが、持世菩薩はネパール仏教の富と財宝の女神ヴァスダーラーに相当します。立川武蔵『曼荼羅の神々』によると「ヴァスダーラーは宝生如来に率いられた如意宝珠部に属すと考えられ、しばしば額に宝生の化仏を戴く」そうで、日本で「雨宝陀羅尼経法」の本尊を宝生如来とする説と通底しています。

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いろいろ調べてみましたが、雨宝陀羅尼(持世陀羅尼)や持金剛海音如来(持金剛海大音声如来)が死霊除に有効という記述は見当たりませんでした。雨宝陀羅尼の読誦の功徳として「病気・飢餓の一切災禍が除ける」ということなので、広く解釈すれば死霊除も含むという事かもしれませんが……

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新幡随院法受寺は東京都足立区東伊興4丁目に現存する浄土宗の寺院で、昭和10年に当地へ移転する前は豊島郡谷中に在りました。
その浄土宗の良石僧侶が新三郎に密教経典「雨宝陀羅尼経」を与えるというのもちょっと不思議です。

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三遊亭圓朝は『真景累ヶ淵』を創作しているので、『死霊解脱物語聞書』も知っていたことでしょう。
この中では浄土宗の僧侶・祐天は阿弥陀経・四誓の偈文・般若心経・光明真言・随求陀羅尼を唱えますが累の死霊には効かず、最後に「我宗の深秘、超世別願の称名」で累を解脱させます。

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浄土宗の立場としては、顕密仏教の各経典・陀羅尼より称名念仏(南無阿弥陀仏)が優れているはずです。
三遊亭圓朝は異父兄・永泉玄昌(臨済宗僧侶)や山岡鐵舟(全生庵開基)を通じて仏教(特に禅)には詳しかったはずで、浄土宗と真言密教の違いを知らなかったとは考え難いと思います。

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余談ですが、五島八十八ヶ所霊場の第21番・戸楽地蔵堂(長崎県五島市松山町)の本尊は地蔵菩薩で、脇仏として弘法大師・不動明王・海音如来が祀られているそうです。やはり真言密教系ですね。https://t.co/69LaQVj6KM

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