水上文義「伝・良助親王撰『与願金剛地蔵菩薩秘記』小考?もうひとつの『蓮華三昧経』?」 を読んでいたら、同書に引用された『蓮華三昧経』の「勝軍地蔵破軍地蔵愛染明王」という一文を『紅葉拾遺』の記述と比較し、同書が多武峯勝軍地蔵の信仰に関わるものだろうと考察されていました。
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『紅葉拾遺』には、多武峯の増賀が夢見た老翁に関して、多武峯(現在の談山神社)の本地を不動愛染双合尊(両頭愛染)または勝軍地蔵とする口伝(附会説とされていますが)が記されているのです。 pic.twitter.com/Tjbx5rXLpp
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『与願金剛地蔵菩薩秘記』では勝軍地蔵が非常に重視され、
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「我朝ハ勝軍地蔵ノ本国也」とか「大日本国ノ執政天津児屋根尊ハ勝軍地蔵ノ変化、大職冠鎌足ノ大臣ハ勝軍地蔵ノ垂跡ト云云。然ハ鎌足ノ大臣誕生ノ時、野干鎌ヲ含テ枕ノ上ニ置。野干ハ鹿島大明神ノ変化也。 https://t.co/l3MhxNHtY2
(続き)鎌トハ大職冠ノ曩祖天津児屋根尊ノ鎌也ト云云。鎌ハ是レ勝軍地蔵ノ三昧耶形也」
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と記されているそうです(「大職冠」は正しくは「大織冠」)。
なお、野干(?枳尼)の鎌の件は『天照太神口決』や『春夜神記』などにも見られますが、『地蔵菩薩秘記』では即位灌頂への関与は言及されません。
また、『地蔵菩薩秘記』が引用する『蓮華三昧経』では
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「地蔵尊ノ本地ハ南方宝生如来也。宝生如来変シテ四面八臂ノ軍荼利明王ト成ル。明王変シテ勝軍地蔵ト成ル。
勝軍地蔵変シテ声聞形ノ地蔵菩薩ト成ル。声聞形ノ地蔵菩薩ノ体ハ宝珠ナリ。宝珠変シテ宇賀神将菩薩ト成ル。
(続き)宇賀神将菩薩違害ノ衆生ノ為ニ、変シテ大荒神多婆天王ト成ル」
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つまり、宝生如来→軍荼利明王→勝軍地蔵→声聞形地蔵(宝珠)→宇賀神将→大荒神多婆天王と変成すると説きます。
「大荒神多婆天王」は見慣れない尊名ですが、『仏説宇賀神王福徳円満陀羅尼経』(山本ひろ子『異神』のハードカバー版に全文翻刻)に説かれる「荒神ノ上首多婆天王」と同一でしょう。
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『大梵如意兜跋蔵王呪経』によると、如意蔵王は諸衆生を済度するために「十種之降魔之身」を現す。十種とは「一者無畏観世音自在菩薩、二者大梵天王、三者帝釈天王、四者大自在天、五者摩醯首羅天、六者毘沙門天王、七者兜跋蔵王、(中略)八者多婆天王、九者北道尊星、十者牛頭天王」である。
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義浄三蔵訳『仏説武答天神王秘密心点如意蔵王陀羅尼経』には「又此天王に十種の変身あり、 一者武答天神王、 二者牛頭天王、 三者倶摩羅天王、 四者蛇毒気神王、 五者摩那天王、 六者都藍天王、 七者梵王、 八者玉女、 九者薬宝賢明王、 十者疫病神王等是也」とある。
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これらの偽経における「如意蔵王」(または「如意兜跋蔵王」)ですが、『大梵如意兜跋蔵王呪経』が『阿娑縛抄』の毘沙門天王の巻に引用されている事を考えると、兜跋毘沙門天王を指しているのだろうか?https://t.co/b78Wf3F4Ul
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『大梵如意兜跋蔵王呪経』における「多婆天王」は、『蓮華三昧経』(『与願金剛地蔵菩薩秘記』に引用)の「大荒神多婆天王」や『仏説宇賀神王福徳円満陀羅尼経』の「荒神ノ上首多婆天王」と同一なのか? https://t.co/wZen0gActH
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不空訳『仏説大荒神施与福徳円満陀羅尼経』(金本拓士「真言宗における荒神の問題」に参考資料として掲載)にも荒神の異名として「那行都作多婆天王毘那耶迦正了智等」が挙げられていました。
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「多婆天王」というのは中世にはポピュラーな尊名だったのかな?https://t.co/biYwS2iRyT
『修験聖典』の「荒神供次第」にも「敬白真言教主大日如来本尊界会那行都作神多婆天王正了智八大従神諸眷属」という記述が有ります。https://t.co/FUJi4rdiYu
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弥永信美氏の「仏教神話学 ホームページ」の Corrections and Additions 3https://t.co/FPOz2pRVif
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「那行都作」の説明が有りますが、「多婆天王」の説明は有りませんね。
安土の桑実寺の由緒を説いた『桑実寺縁起』に、
— k.hisadome (@HisadomeK) May 17, 2021
「先此湖海(琵琶湖)は弁才天の浄土也、彼天女むかし空王如来の記別を受けてよりこのかた、或は三光天子と現じて……或は八大龍王と化して……多婆天王瞋障を調伏し……」
という記述が有りました。https://t.co/8mcag52NSx
山本ひろ子『異神』を読み返したら、「弁才天修儀」の儀礼において門前作法(荒神供養法)で唱える句に「謹テ世間出世ノ如意珠ヲ以テ三宝荒神ニ奉リ多婆天王ヲ始メ三神ノ使者・無量ノ眷属ニ献ジ奉ル」と有りました。
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室田辰雄 「『文肝抄』所収荒神祓についての一考察」によると、陰陽道の『祭文部類』「荒神之祭文」の勧請文において四方・上方・下方・四維の大荒神に続いて「多婆天王」や「那行都佐神」が勧請されるそうです。https://t.co/3Vulp8lfve
— k.hisadome (@HisadomeK) May 18, 2021
高橋悠介『禅竹能楽論の世界』を借りて来ました。
— k.hisadome (@HisadomeK) May 22, 2021
『荒神縁起』には「呉之南国ニ聖人アリ、金貴大徳ト名ク、件ノ聖人宝幣ヲ東方ノ多婆天ニ捧テ三反礼拝セシカハ、現身ニ悉地円満シ……」という記述がある。 pic.twitter.com/C1NhLbQW1f
また、『神道雑々集』の「荒神之事」にも金貴大徳が「東方ニ坐ス多婆天王ヲ拝ミ奉ル」という記述が有る。
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『神道雑々集』は全文見たいのですが、どこか翻刻版を出してくれないかなあ。
高橋悠介氏は、同書のp.142で多縛天王(多婆天王)について「もともと兜跋毘沙門天と何らかの関係をもつ尊であったと思われるが」と書かれているので、『大梵如意兜跋蔵王呪経』が元と考えれば良いのかな。
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鈴木耕太郎『牛頭天王信仰の中世』の第三章の注(35)によると、井上一稔氏は「『大梵如意兜跋蔵王呪経』は中国で成立したものであり、牛頭天王もまた中国由来である」と主張されているそうです。この井上氏の主張が正しいとすると、多婆天王も同様に中国由来という事になりますが、どうなんだろう? pic.twitter.com/UU0SenHwKn
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『与願金剛地蔵菩薩秘記』が引用する『蓮華三昧経』において、
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宝生如来→軍荼利明王→勝軍地蔵→声聞形地蔵(宝珠)→宇賀神将→大荒神多婆天王
という変成を説くのは、軍荼利明王が毘那夜迦を降伏する明王であり、毘那夜迦が荒神と同一視される事とも関係有るのだろうな。