ケーキを焼こう
中学、高校生の頃は、ケーキを焼くのが大好きだった。今でももちろん
好きなのだが、どうにも性分か難しいケーキばかりを作りたくなるのと、
その面倒くささを乗り越えるのにかなりの気力を要するようになったと
いう理由で以前ほどは頻繁に作らなくなった。
また、学生時代、会社の寮生活時代ともにケーキを焼けるようなオーブンを
手近に所有しているはずも無く、その間の10年近いブランクがすっかり
ケーキを焼くという趣味から遠ざけてしまったように思える。
ところが、アメリカに来てから少しづつではあるが、ケーキ作りへの情熱が
戻ってきつつあるように思える。理由の一つは、アメリカのケーキが原則として
美味くない!ということ、もう一つはケーキには国境がないことを実感したためである。
研究室のメンバーのホームパーティーに招待されたときに、妻がブラウニーを焼いて
持っていったら凄くウケが良かった。
また何よりもアパートに当然のように巨大なオーブンが備え付けられていたことも大きい。
僕の過去の最大傑作は”ミルフィーユ”である。粘度高めのカスタードクリームに、
薄いパイ生地、と僕にとってはかなり難しい組み合わせだったが、高校生の時の
とあるクリスマスに7時間掛けて作った。アメリカに来てからは、日本に比べて酸っぱい
リンゴが手に入りやすいこともあり、母親に電話でレシピを聞いて、感謝祭用に
アップルパイを焼いた。パイは時間と体力を掛けた分だけ確実に美味しくなることが
分かっているので作りがいがある。ケーキ職人には男性が多いようだが、全身の
力でパイ生地を延ばしているとその理由がわかる。
偉そうなことを書いているが、実はアメリカに来てから焼いたケーキはたった
3つだけである。一つは上述のアップルパイ、一つはアプリコットタルト、
そしてもう一つが研究室のメンバーに振舞うために焼いたBuche De Noel である。
Buche De Noel フランスの伝統的なクリスマス用のケーキで、英語に直訳すると
Log Of Cristmas、日本語ではクリスマスの木とでもなるのか。チョコレートクリームを
ふんだんに使ったロール状スポンジケーキ、初めて挑戦したケーキであったが、
予想外に出来が良かった。あまりにもウケが良くて、研究室の同僚数人に
レシピを求められ、日本語レシピを英語に訳す羽目になったのはご愛嬌。
このケーキを振舞った日は、初めてアメリカ人の同僚に”You are Crazy.”と
言ってもらえた日でもあった。
ケーキ作りは楽しい。ドキドキしながらメレンゲと生地を合わせ、それがちゃんと
膨らんでスポンジケーキになったかどうかを確かめる瞬間。焼き立てのパイの
層の枚数を数えて悦にいるとき。
手作りのケーキは材料を贅沢に使うためかどうしても高カロリーになりがちなのが
玉に傷だが、折角のアメリカ滞在のチャンス、こちらにいる間にもう一度ケーキ作りの
情熱に完全に火がつくことを願っている。