ステレオタイプ
アメリカに来る前から何となく心にあり、覚悟していたのが、人種差別とステレオタイプに基づく偏見である。
僕が鈍感過ぎるのか、住む場所が良かったのか、それとも無意識に危うきに近づいていないのか、は
分からないが今までにあからさまな人種差別に遭遇したことは無い。
一方でステレオタイピングであるが、これはもう自分が犯してしまうものを含めて枚挙に暇が無い。
日本人と言えば、仕事中毒、男女差別、謙虚、礼儀正しい、恥ずかしがり、年功序列、ハイテク etc.
また、トヨタやホンダ、ニッサン、ミツビシ、SONY、SHARP、Panasonicなど
世界に冠たる日本企業の名前だけで日本を見ている人間も多い。
翻って自分を見てみると、目立ちたがり屋で我侭で表面的で、でも気さくで大らかで冗談好きなアメリカ人。
感情的なロシア人、勤勉で時間にまめでプライドが高くアメリカを見下すドイツ人、と
これまた決め付けのオンパレードである。
我が研究室に間もなく韓国人のポスドクが加わることになった。
これまで多国籍軍ではあるが僕以外は全員白人という環境で1年を過ごしてきたので、
同じアジア人の同僚が出来ると言うのは何故かフシギな感じがして想像がつかない。
僕は渡米前に派遣先には一人も日本人がいないと信じていたので、
空港への出迎えからアパート探し、車の購入、各種手続き、と全て研究室の他のメンバーに手助けしてもらったのだが
今度来る韓国人は、PSEにいる他の韓国人にすでにすべてを手配してもらっているようで、
当面われわれが出来ることは何も無いようである。
我らがボスのHenning教授も韓国人の団結力には強い印象があるらしく、彼はここで研究していく上で
何一つ困ることは無いだろうと冗談混じりに話していた。何しろ強力な韓国人コミュニティのバックアップがあるからと。
一方で他の研究室のメンバーにはちょっとした心配事があるようだ。
僕が来る以前にもこの研究室に韓国人ポスドクがいたのだが、彼は1年以上の在籍中、
ただの一度も研究室のメンバーと昼食を一緒に取ったことが無かったらしい。
つまりコミュニティの強力さの裏返しとしての排他的態度が心配と言うわけだ。
確かにPSEに限っていえば、韓国人グループと中国人グループは所属研究室にかかわらず
昼食などの私的な行動は同国人と共にするケースが多いように思える。
もっとも研究室のメンバーにとっては日本人も同じメンタリティーを有するということになっているらしく、
僕が常に彼らと昼食を共に取り、遊びに付き合い、自宅でのパーティーにメンバーを招待するというのは
ちょっとした驚きだったようだ。僕からしてみれば、日本人はその点については韓国人、中国人とは相容れないと思っているのだが。
つい最近同室のドイツ人ローランドに日本人のイメージを聞いてみた。
もっとも彼自身日本人に注目したことなど無く、大して感想も持っていなかったのだが、
その彼の答えが前述の取りあえず群れて閉鎖的、というのとヨーロッパ一周一週間の旅(なんじゃそりゃ)、であった。
ドイツでの彼の故郷のすぐ近くに有名な古城があるらしい。
一度でもヨーロッパへのパック旅行を検討したことのある人ならピンと来ると思うが、
ドイツと言えば古城巡りである。そういうわけで彼は幼少の頃よりバスで毎日のようにやってきて
数時間だけ滞在し、写真を撮りまくってどっちゃり土産を買っていく日本人を見てきたそうだ。
また彼は旅行好きでヨーロッパの各有名都市を何度も訪れているが
行く先々で似たような一行を見てきたという。
彼にいわせれば、ヨーロッパ人にとっての日本人とは
一週間でヨーロッパを一周してしまう”旅行上手”の国民で、それを知らない者はいないそうである。
我が家の車は一台であり、妻が用事があるときは、当然彼女が車を使うことになる。
時々不意のサッカーなどに放課後(!?)誘われることがあるのだが、そういう時に車が無かったら
家に電話をして道具一式を届けてもらうことになる。
同室のモロッコ人Aadilにはこれが非常にイメージが悪い行為らしい。
またある時平日の夜にパーティーがあったのだが、妻は英会話が同じ時間にあるため
パーティーの終わり間際にしか参加できないということがあった。
パーティーは当然持ち寄りだったので、妻が研究室のメンバーに以前ウケが良かった巻き寿司とコロッケを作ってくれた。
これがまたAadilには何ともウケが悪い行為になってしまった。
本人がろくすっぽ参加も出来ないパーティーのために料理を作らせるとは何事か!という訳だ。
以前参加していた英会話学校の卒業式パーティーに家族同伴OKにもかかわらず妻を連れて行かなかったら
英会話学校の教師にボロカス言われてえらく恥ずかしい思いをしたこともある。
僕自身や妻の行動や価値観、お互いの関係、が間違っているかどうか、道義的に見て明らかに違反であるかは別にして
基本的に日本人の夫婦関係についてネガティブな先入観が彼らの中に存在することは間違いが無く
どうも厳しく監視されているような気がしてしょうがない今日この頃である。