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いささか趣向を変えてみまして・・・ | -2003/02/18- |
昼なお暗いオークダンジョンの地下──
体力をすり減らした僕は、その場に座って束の間の休息をとっていた。剣技の連続使用で精神が蝕まれ、軽い頭痛さえ覚える。
騎士になって一週間。なりたての新米の僕にはこれといって強力な技能があるわけでなく、その力は剣士と大差はなかった。
曰く、騎士という戦闘のエキスパートが長年にわたって改良を続けてきた技能は敵の大量殲滅を可能にする。身にまとった分厚い金属の鎧は、モンスターの爪牙を跳ね返し、全職業中最大を誇る防御力は長時間の生存能力を約束する。
そんな謳い文句も僕には遠い未来のことに思えた。
そっと傍らに置いたまだ新しい片手剣、ファイアブレイドを見る。見る者が見れば、剣全体が陽炎のような赤いオーラをまとっていることが分かるはずだ。
刀身に浮かび上がった赤い刃紋は、この剣に火の属性が付与されている証だった。地の属性と不死の属性を持つ敵に対して、この剣は確実な効果を約束してくれる。
数時間前、一説にはルーンミドガッツの首都プロンテラで最も暗殺の危機にさらされていると噂されている精錬所の親方、ホルグレンの声を背中に受けながら、僕は精錬所の外に出た。
新しく手に入れたブレイドの精錬に三回も失敗して、僕の財布はすっかり軽くなっていたのだ。
精錬の失敗を咳払いでごまかし、また適当な仕事で高額の手数料をとるため──多くの冒険者の恨みをかっており──これが暗殺の危機にさらされている最大の理由だった。
そんなわけでここ、オークダンジョンに潜り込んでどのくらいが経過したのだろう?
不死の力を与えられたオーク族の死体、オークゾンビとオークスケルトンの群れと無我夢中で戦ううちに、時間の感覚も薄れてきたようだ。
正直、追い詰められていることも確かだった。
それでもここに留まる理由、それが分からなかった。兄は世界に絶望して故郷で隠遁生活に入った。冒険で築いた富も人間関係も全て投げ出しての決断だった。
──では僕は?
僕は何をこの世界に求め、戦い続けるのだろう?
ふと、思索の迷路にはまり込みそうになったが、その時間はあまり与えられなかった。
人間ではない、何者かがこちらに向かってくるようだ。
自分に向けて殺到してくる気配を感じて、僕は立ち上がった。なるべく鎧の金属音を立てないように、それでいて素早く。
シールドを構え、命を預けるファイアブレイドを握り締める。
・・・円弧を描いて振り上げられた剣が、闇の中に薄い緋色の軌跡を描いた。
「SS風にしてみましたが、うまくいきませんね」(弟)
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