プロジェクト・エデン特別篇

   「帝国最大の作戦」

 

                              第七章

 

  事実は、その人の望む望まざるに関係なく突き付けられるものだ。

  太古にいた哲学者の一人が、そのような言葉を残したと言う。

  そして、その事実の多くは「望まざるもの」であるとも言う。

  今、白銀のマントに身を包む男につきつけられている事実も、同じであった…。

 

  数十機のモニター画面を、フェンリル将軍は無言でにらみつけていた。

  「帝都を囲む幹線道路は完全に閉鎖されました!」

  「通信管制により、高速光ファイバー通信網は軍の管轄下に移行しました」

  「第3航空騎兵、第5航空騎兵、出撃準備完了」

  「西地区に展開中の武装警備隊は、ただちに西南西に移動せよ!」

  様々な情報や通信が洪水のように入ってくる。オペレーターたちが死にもの狂いの

形相で、それらを整理し、処理していく。

  その様子はあたかも戦争が始まったかのようであった。

  ミレニアム帝国の帝都中心にある統帥府ビル。その地下に作られた統合作戦指令

センターであった。帝国全土の通信、交通、軍事を制御する機能を持っている。

  通常は地上部分にある統合作戦本部の中央司令室が使われるのだが、緊急事態

が発生した場合には自動的にこの地下施設に指揮系統が移されるのだ。

  「非常事態宣言」が出された現在、この指令センターが「緊急対策本部」となってお

り、帝都周辺部の全てが統轄下に置かれていた。

  各地に設置されたカメラアイから送られてくる映像が無数のモニターへと映し出さ

れ、警備隊の配備状況や航空騎兵の出撃準備を伝えて来ている。

  これまでのレジスタンス掃討作戦のどれよりも物々しく、大規模な動員であった。

  だが、そこに見える警備隊員や航空騎兵隊員は、統帥府の指令センターにつめて

いるオペレーションスタッフたちと同じように強ばった表情に塗り固められていた…。

  困惑、焦燥、混乱、動揺…。あるいは恐怖、戦慄、驚愕…。

  これまでミレニアム帝国においては無縁と信じられていた感情の全てが、その表情

の中に盛り込まれている。

  キルケウイルスの影響によって、その全ては消し去られたはずのものであった。

  ミレニアム帝国が掲げる「幸福世界」には、あってはならないものでもあった。

  今、ミレニアム帝国は、建国以来なかった最大の危機を迎えていたのである…。

  「タコ」という一つの生物の存在ゆえに…。

 

  タコ

  20世紀では、寿司のネタとされ、タコヤキの具として珍重された海洋軟体生物。

  刺し身醤油とワサビを組み合わせれば、最高の酒のツマミとなる一品。

  あるいは小麦粉の中に包まれた珠玉の味=「タコヤキ」として、庶民に親しまれてき

た食べ物。タコヤキに収められたその大きさを巡って、路上を血に染めるストリートファ

イトさえ引き起こしたと言われる魔性の食材。

  だが、この30世紀のスーパーテクノロジーを結集して再生されたそれは、本来の姿

とは似ても似つかない怪物として存在している。

  偉大なるミレニアム皇帝のわがままな一言によって、無責任な科学者たちが無謀とも

ヤケクソとも言える研究開発を遂行し、ついにバイオテクノロジーの暴走した産物として

生み出した「タコ」…。その全長は20メートル以上に達し、不気味な斑紋に覆われてい

る。しかも、薄い膜を使った効果で空中へと浮遊する能力を身につけているのだ。

  もはや、それは「タコ」と呼べるような代物ではなかった。

  人は言う…。

  永遠の平和を享受する神聖なる帝国に降臨した悪魔…。

「怪獣タコラ」と!

 

  「怪獣タコラを確認しました。王宮の西南西、およそ15キロの地点です」

  通信を受けていたオペレーターの一人が振り返りつつ、叫んだ。

  「高感度パノラマレーダーでも確認。対地高度は、150メートル!」

  レーダーを凝視していたオペレーターが続けて報告する。

  その声を受けて、モニター前に立っていたフェンリル将軍がゆっくりと振り向く。

  やや、疲れの色が浮かんでいるようにも見える。

  「オペレーター。誰か、近くにいる者と連絡は取れるか?」

  「第2強行偵察隊が現場付近に到達しているものと思われます」

  「タコ…、いや、タコラの様子をこちらへ見せることが可能か?」

  フェンリルも「タコ」ではなく、「タコラ」という名前を使うようになっている。

  不幸な偶然の結果として、心ならずも命名者となってしまったフェンリルではあるが、

帝国全軍が「タコラ」という名前を正式名称としたために、彼自身も使わざるを得ない

状況に追い込まれていたのだった。なにしろ、全ての通信回線において「タコラ」「タ

コラ」「タコラ」のオンパレードになっているのである。いくらフェンリル自身が「いやだ」

と言っても仕方ないのだった…。

  フェンリル個人の思いとは関係なく、事態は急速に進んでしまっている。

  帝国軍最高司令官でありながら、その身を不幸と思わずにはいられないフェンリル

であった…。

  「画像転送準備は、すでに完了しているようです」

  「よし。大型スクリーンに映像を出せ」

  ビュウウゥゥン…と電子ノイズの音が響いて、頭上に広がる大型スクリーンに灯が入る。

  と同時に、それいっぱいにグロテスクな怪物がアップになる。

  「どわぁっ!」

  「ぐえぇぇぇっ!」

  「うひょおぉぉ!」

  指令センターのあちこちで悲鳴があがり、床へ倒れる鈍い音が響く。

  「い、いきなりアップにするなぁっっ!」

  操作コンソールにすがりつくようにヨロめいたフェンリルが怒鳴る。

  思わず胃の内容物をすべて吐き出してしまいそうなキュートな怪物の姿を、何の心

構えもなく見せられてしまったのだ。すでに指令センターにいるスタッフの何人かは

白い泡を吹いて、ぶったおれてしまっている。恐るべき破壊力であった。

  カチカチとズームの音がして、タコラの姿はスクリーンの中で小さくなっていく。

  何とか意識を保ったオペレーターが必死に縮尺調整を行ったのだった。

  「う〜む。さすがに寿命が縮まったわい…」

  額から流れる冷や汗をぬぐいつつ、フェンリルが息をつく。

  「そ、それにしても恐るべきインパクトですね」

  横にいる主席副官のヘルモーズが言う。彼の顔も青ざめているようだ。

  「王宮での事件を最初と考えれば、セカンド・インパクトと言うべきか…」

  「・・・・・・・」

  フェンリルの言葉に、ヘルモーズは沈黙するしかなかった。

  もはや完全に時代遅れとなってしまった言葉のような気がしたからである。

  かっては、それなりに使える言葉ではあったような気もするが、もはやそれを使う

こと自体がナンセンスのように思えてならない。

  どうしてだか判らないが、そう思ってしまったのである。

  「・・・・・・・・」

  フェンリルもまた、ヘルモーズの反応に寂寥感のようなものを感じていた。

  潜在意識のさらに奥底、遺伝子の深奥に眠る過去の記憶がそうさせるのかもしれ

ない。時代の移り変わりの激しさ、虚しさを感じずにはいられないフェンリルだった。

  「しょ、将軍。タコラのインパクトはともかく、対策をこうじませんと…」

  気まずい雰囲気を変えるようにヘルモーズが言う。

  「対策? 何か妙案があるとでも言うのか?」

  フェンリルが逆に聞き返す。

  「た、例えば航空騎兵の全軍をもって、総攻撃を加えるとか…」

  「無駄だ。第7航空騎兵だけでなく、さらに第8航空騎兵までもが全滅したではないか」

  「そ、それはそうですが…」

  ヘルモーズは冷や汗をかきながら、モニターの一つに映し出されているスクラップ

の山へと目を移した。

  それはタコラに対して攻撃を加えた航空騎兵団の残骸である。

  最初に攻撃を敢行した第7航空騎兵に続いて、さらに勇猛をもって鳴らす第8航空

騎兵が突撃したのだが、あっという間に全滅させられてしまったのである。

  一斉に放たれたロケット弾をプヨンプヨンと跳ね返してしまっただけでなく、なんとタ

コラはその足を開いたまま、高速で回転しはじめたのである。その地獄のメリーゴー

ラウンドに巻き込まれた攻撃ヘリの一群は、為す術もなく残骸の山と化したのだった。

  「回転しながら飛ぶとは、まるでガ○ラみたいですね」

  ヘルモーズがボソリと言う。

  ちなみにガ○ラとは、20世紀に出現したと言い伝えられる伝説の怪物のことだ。

  30世紀では、同時期のゴ○ラと同じように神話のようにしか考えられていない。

  しかし、そのような下地があったからこそ、「タコラ」=「巨大怪獣」という名前からの

イメージを素直に受け入れられたのかもしれない。「ラ」さえ付ければいいのかという

気もしないではないが、それはそれで良いということにしよう…。

  「これがあの可愛らしいタコのなれの果てとはなぁ…」

  死んだ子の歳を数えるようにフェンリルがつぶやく。

  その声の中には、深い哀愁がこめられている。

  「将軍、これからどのようにいたしましょう?」

  もう一度、ヘルモーズが催促するように尋ねる。そうでもしないと、フェンリル将軍

が思いっきり現実逃避してしまうような予感がしたのだ。

  「うむ…。どうしようかなぁ…?」

  フェンリルの反応に、ヘルモーズが自分の予感が正しかったことを確信した。

  その時だった!

  「しょ、将軍! タコラが動き始めましたっ!」

  オペレーターの絶叫が、指令センターの中に響き渡る。

  大型スクリーンの中でタコラがフヨフヨと空中を漂うにして動き始めるのが見えた。

  その様子は、空の散歩を楽しんでいるようで緊張感のカケラもない。

  あくまでも、そのグロテスクな威容と巨大さを考えなければ…の話ではあるが…。

  フヨフヨ・・・フヨフヨ・・・フヨフヨフヨヨヨヨ・・・・・。

  ユラリユラリと風に揺られるようにして、タコラを空中を滑るように動いていく。

  その様子だけからなら、ほのぼのとした雰囲気の光景だ。

  次第に画面から遠ざかっていくタコラの姿は、まるで映画のラストシーンのようで

もあった。

  「う〜む。このまま『完』とか出てはくれないものかなぁ…」

  フェンリルがスクリーンに向かってつぶやく。

  「いえ…、どちらかというと『つづく』のような気がしますが…」

  ヘルモーズがうんざりした表情で応える。それがフェンリルの癇にさわった。

  「どうして、お前はそんなに悲観的に考えるんだっ!」

  「どうして楽観的に考えられるんですかっっ!」

  「ちょっとぐらい、「このまま消えてくれたらなぁ」とか思わんのか?」

  「この状況下で、そんなことが言えますか! 乙女が祈りをささげれば、あの怪物が

おとなしく消えてくれるとでも思ってるんですか?」

  「おお、そういう考えもあったか!」

  フェンリルがポンと手を叩く。

  「そんなこと、ゆーとる場合ですかっ!」

  ヘルモーズがたまらず怒る。当然である。

  「ど、どうするんです? どうするんですか、将軍っ!」

  「・・・・・・このまま見逃すというのは、どうだろうか?」

  「将軍っ!」

  「判っている。言ってみたかっただけだ…」

  寂しそうに言葉を返すフェンリル。「何もかも放り出してしまいたい」という気持ち

と「逃げ出してはならない」という責任感に挟まれた彼の苦悩は、察して余りあるも

のがある。だが、彼は決して逃げ出したわけではない。

  それは、「帝国軍最高司令官」という重い看板を背負っているからでもある。

  これまでもレジスタンスとの闘いを始め、多くの危機からミレニアム帝国を守って

きた男に対する期待は大きい。今度も何とかしてくれる、という帝国全軍の思いが

彼の双肩にのしかかっているのである。応えざるを得ない…。

  怪獣が暴れている時にウルトラマンが「今日は疲れてるから、休ませて…」と言え

ないのと同じである。そんなことを言った日にゃ、暴動が起きるだけでは済まない。

  因果な商売である…。

  「どうしたものかな…」

  フェンリルは深くため息をつくのだった。

 

  そんな苦労をよそに、タコラはフヨフヨを空中を漂っていた。

  それを遠巻きにするようにして、帝国軍のヘリコプターが飛んでいる。

  何もするな、という指示が出ているために、ただ寄り添って飛ぶしかない。

  パイロットの半数以上は、工作員と同じようなキルケウイルス感染者であるため

に、ただ命令通りにヘリコプターを操縦しているだけである。

  しかし、指揮官を始めとする高級士官は耐性を持った普通の人間である。

  彼らにとっては、為す術もなく飛んでいることは苦痛以外の何物でもなかった。

  「くそぉ、ガマンできん!」

  そう吐き捨てたのは、第12航空騎兵を預かるリューケン大尉である。

  「大尉、早まらないで下さい!」

  副官を務めるユーミル曹長が慌てたように言った。

  「あんな怪物ごときになめられてたまるか!」

  「ですが、ロケット弾も効かない相手じゃ、どうしようもありませんよ」

  「フフン。ところがな、俺の機体に積んでいるのはロケット弾じゃないんだ」

  「え?」

  思いがけない一言にユーミルがキョトンとする。

  「搭載しているのは、圧縮燃料を詰めた焼夷弾なのさ」

  「な、なんで、そんなものを積んできたんですかっ?」

  ユーミルが愕然とする。焼夷弾はその残虐性と無差別な破壊力から、ミレニア

ム帝国では禁止されているものであった。特に戦争が起きることのない30世紀

の世界では、ほとんどの大量殺戮兵器は存在を認められていないのだ。

  だが、使用が禁止されているとは言え、それが完全に無くなることはない。

  「もしもの時に」という言葉を免罪符に、常に存在し続けるのが兵器の兵器たる

所以である。それは20世紀も、30世紀も変わることはない。

  「噂では、あのタコラとかいう怪物はタコという生物らしいじゃないか」

  リューケンがせせら笑うように言う。

  「俺はな、統合作戦本部の友人から『タコ焼き』という言葉を聞いたことがある」

  「た、大尉…。まさか…!」

  「そうよ。この焼夷弾で、あのタコラを『タコ焼』にしてやるんだ!」

  「む、無茶ですっ!」

  ユーミルが止める間もなく、すでにリューケンの操縦する機体は隊列から離れ、

タコラへの攻撃コースへと旋回していく。

  銀色の羽をきらめかせ、攻撃ヘリはタコラへと真っ直ぐに向かっていく。

  「大尉、やめてください!」

  ユーミルが無線へと怒鳴る。だが、リューケンの機体は戻ろうとしなかった。

  「第12航空騎兵、コースを離れている。どうしたんだ?」

  どうやら異変に気づいたらしく、指令センターから緊急無線が入ってくる。

  「そ、それが…」

  ユーミルが答えようとした時、すでにリューケンの機体は攻撃ポジションについ

ていた。

  「うおおお! タコ焼きにしてくれるわ!」

  無線機にリューケンの叫びが響き渡った。

  翼下に焼夷弾を抱いた攻撃ヘリが、猛禽のようにタコラへと突進する!

  「何をしている? おい、どうしたんだ!」

  状況をつかめない指令センターから、慌てふためいたように問い掛けてくる。

  「リュ、リューケン大尉が『タコ焼き』を…!」

  ユーミルがうろたえたように報告しようとした瞬間、信じられないことが起こった。

  まさに数千度の炎を撒き散らす焼夷弾を放とうとリューケンの攻撃ヘリが肉迫し

た途端、タコラがクルリと向き直ったのだ。

  黒真珠のような目がキョロリと、突進する小さな機体を捉える。

  「!」

  操縦スティックの発射ボタンに手をかけたリューケンの背筋を、表現しがたい

寒気が突き抜けた。それは戦慄と言うのもおこがましい恐怖であった。

  そして、それは現実へと変化する。

  グオオオオオオッッ!!

  タコラの口から、まさかと思える紅蓮の炎が噴き出したのである!

  「ぬあにぃぃ!」

  リューケンの機体は避ける間もなく、その紅い色に呑み込まれた。

  「そ、そんなバカなぁぁぁぁ・・・!」

  痛ましい悲鳴が無線の中を駆け巡る。それがリューケンの最後の叫びだった。

  ドッグワァァァン!

  攻撃ヘリは空中で大きな火の玉と化し、四散した。

  炎の尾をひいて、その残骸が地上へと落ちていく。まるで、花火の残り火を見て

いるかのようであった。

  「どうした!何があった?」

  指令センターのモニターで惨劇を目撃したのだろう。絶叫に近い声で、指令セ

ンターの担当官が呼びかけてくる。

  「・・・・・・・・・・」

  蒼白の表情で、ユーミルは無線機のマイクを取った。

  「こ、こちら…、第12航空騎兵の副官のユーミル…」

  「どうした、何があったか報告しろ!」

  「そのリューケン大尉が『タコ焼き』を…」

  「タコ焼?」

問い返されて、ユーミルはすぐに間違ったことに気づいた。

  「いえ、その…、リューケン大尉が『タコ焼かれ』をしまして…」

  ユーミルはそう報告する。確かに間違いではない…。

  哀れにもタコラに焼かれてしまった自分たちの隊長の名残とも言える黒煙の中

を、ユーミル率いる第12航空騎兵の一群が通り過ぎていく。

  (もう二度と近づこうとは思わないようにしよう)

  操縦スティックを握りながら、ユーミルは心に誓うのだった。

 

  「な、何で、タコラが火を吐くんだ???」

  指令センターで状況を見ていたフェンリルが叫ぶ。

  「さぁ、何ででしょう?」

  スタッフの誰もが首をかしげる。もちろん、答えられるはずもない。

  「どういうことなんだっ?」

  額に青筋を立てながら、フェンリルが怒鳴る。

  信じられない光景を目にした時、人は平常心を失うものである。

  「どういうことも何も…、タコラとは火を吐く生物なのだということでは…?」

  ヘルモーズが答える。

  「そんな訳あるかっ!」

  「だって、実際に火を吐いたじゃありませんか」

  「タコが火を吐くなんて、聞いたことないぞ!」

  「しかし、あれはタコではなく、タコラなのでしょう?」

  「あれはタコだっっ!!」

  フェンリルが怒鳴る。「タコ」「タコ」と、いい歳したオッサンが大声で連呼するの

を見るのは、滑稽を通り越して不気味である。

  「しかし、将軍…」

  ヘルモーズを始めとしたスタッフたちも、呆気にとられている。

  だが、フェンリルはその様子に気づくこともなく怒りまくっている。

  「おのれ…。一体、誰がタコをあんな怪物にしたのだ…!」

  歯をギリギリと軋ませながら、フェンリルがうめく。

  「将軍。それは私です!」

  不意に、凛とした声が指令センターの中に響いた。

  まさかの声に、フェンリルがギョッと振り向く。

  カッカッカッカッカ・・・・。

  甲高い靴音を響かせながら、二つの白い人影が指令センターの中を歩いてくる。

  二つの人影は、まっすぐにフェンリルの所へと近づいていく。

  「お、お前ら・・・」

  目の前に立った二人を見つめ、フェンリルがうめいた。

  それは、帝国生化学研究所でタコの再生作業を行った二人の科学者・・・。

  シンドゥリ博士とペイオス助教授の二人であった・・・!

 

                                                                                つづく