学校怪談

夜の王様

 

 

    第五章 音楽室

 

 音楽室は校舎の3階のはじにあった。

 幾人もの生徒が帰り支度をして、階段を駆

け降りていく。ブラスバンド部の生徒だ。

 高学年が中心になっているブラスバンド部

では最近、塾に通っている生徒が多くなって

きたため、それほど遅くまで練習をすること

ができなくなっている。多くの生徒が、5時

からの塾に間に合うように帰宅しなければな

らないからである。

 「おつかれさまぁ」

 「バイバーイ。また、あしたねぇー」

 元気な声が、思い思いに分かれ、学校を出

ていくのが聞こえてくる。

 そして、その声を耳にしながら、美貴と裕

一は音楽室へと向かっていた。

 「カギは開いてるのかよ?」

 「大丈夫よ。ブラスバンド部のクラブリー

ダーをやってる美佐子から、ちゃんと借りて

おいてもの」

 美貴の手の中で、カギがチャリンと音をた

てた。

 「後で、何か言われないかな?」

 「美佐子には、後で私が職員室に戻してお

く、って言っておいたわ。それにあんまり長

い時間にならなければ、大丈夫よ」

 やがて、廊下の突き当たりに、普通の教室

とは雰囲気の違うドアが見えてきた。通りす

ぎる教室の中に人影は見えない。

 美貴たちは突き当たりのドアの前へと到着

した。物音は聞こえない。

 煤けたネームプレートに「音楽室」の文字

が書かれている。曇りガラスの窓からは、中

の様子をうかがう事はできなかった。

 「さて、行きますか…」

 美貴の声も心なしか緊張している。

 それもそうであろう。学校の怪談の中では

最も有名な音楽室である。無人の教室に響く

哀しいピアノの旋律…。どこの学校にも必ず

あると言われる音楽室の怪談である…。

 美貴はゆっくりとドアに手をかけた。

 キィィィ…。

 横にスライドしたゴムのこすれる音と共に

音楽室のドアが開いた。

 階段のように一段ずつ高くなっていく教室

の中に、たくさんのエレクトーンが並んでい

る。窓のそばには、使われなくなったオルガ

ンが埃をかぶって置いてあるのが見える。

 緑ヶ丘小学校では、オルガンはもう使われ

なくなり、リズム機能のついたエレクトーン

が使われている。だが、それももうすぐにシ

ンセサイザーのキーボードに変わるという話

だった。最近では、いろんな音を出すことの

できるキーボードを導入する小学校が増えて

きているらしい。

 「なんとなく熱気が残ってるみたい…」

 「そうだな。ブラスバンドの連中は、練習

熱心だからなぁ…」

 二人は教室の様子を見回しながら言った。

 言うとおりに、教室の中はすこし熱っぽさ

が漂っていた。演奏をするのに使われたエネ

ルギーが、目に見えぬ形で部屋の中に残され

ているのかもしれない。

 「さてと、どこから調べるんだ?」

 「そうね…。とにかく問題のピアノから見

てみることにしない?」

 「誰もいないのに鳴るピアノか…」

 裕一は教壇の横へと目を向けた。そこには

黒光りするグランドピアノが、ドンと置かれ

ていた。

 「そう。学校の怪談のベストセラーよ」

 そう言いながら美貴はピアノへと歩み寄っ

た。フタを開けると臙脂色の布があり、それ

を取り除くと、白と黒に色分けされた鍵盤が

並んでいるが見えた。

 「誰もいなくなった音楽室なのに、何故か

ピアノの音が聞こえるのよね…」

 美貴が鍵盤を指でたたいた。

 ポオォォンン…。

 広々とした音楽室の静寂を破るように、ピ

アノの音が響きわたっていく。

 その音は、二人だけしかいない部屋の中で

妙に大きく感じられ、妙に不気味な音のよう

に聞こえた。

 「これがどうして、勝手に鳴ると言うのか

しら? 別に普通のピアノだけど」

 「普通のピアノと言う割りには、けっこう

イヤな感じに聞こえる気がするけどな…」

 横で見ながら、裕一はそう感想を述べた。

 

 誰もいないはずの音楽室から、ピアノの音

が聞こえてくるという話は、大抵の学校にあ

る有名な怪談である。このシチュエーション

はどこも同じだと言っていい。

 違うのは、何故か…という部分である。

 「血に染まる鍵盤」という話では…、昔に

失恋に悩んでいた女の先生が、このピアノの

上で手首を切ったというものだ。それからと

言うもの、夜になると、誰もいないはずの音

楽室からピアノの音が聞こえ出す。そして、

のぞいてみると、真っ赤に血で染まったピア

ノの鍵盤が勝手に動いている…と言うのだ。

 「練習する美少女」の話では、死んだのが

コンクールを目前に病死した女の子になる。

 目標にしていたピアノコンクールに向けて

必死に練習をしていた女の子がいる。その子

は元々病弱で、練習の無理がたたって、つい

にコンクール前日に死んでしまう。それから

誰もいない音楽室からピアノが聞こえ始め、

その曲はコンクールの課題曲だった、という

ものである。

 ちょっとタイプが違うのは、「呪われたピ

アノ」という話である。この場合は、その学

校で誰かが死んだというわけではない。買っ

たピアノそのものに、前の持ち主の思いがこ

もってしまっていたというパターンである。

 この話のこわい所は、持ち主の幽霊がピア

ノの前に座った生徒に乗り移って、ピアノを

弾きはじめる部分だ。他にも、フタに知らな

い女の子の顔が映ったとか、長い髪の毛が指

にからみついてきたなどのバリエーションが

存在する。

 

 ポオォォン…。ポオォォン…。

 美貴は鍵盤をたたきながら、周囲の様子を

注意深く観察していた。

 少しの変化も見落としてはならない…!

 二人とも理科室の事件があるだけに、見渡

す目は真剣そのものであった。もし何か起こ

れば、笑い事では済まないからだ。

 「裕一。ちょっとでも気になることを見つ

けたら、すぐに言ってね」

 「美貴だって、変な物音にも気をつけてお

いてくれよ」

 お互いに言葉をかけあうのは、注意をうな

がす一方で、やはり怖かったからなのかもし

れない。気をつけろ、とは言うものの、具体

的なことは何も分かっていないのだ。

 カーテンがちょっとでも揺れたら、それが

危険の合図なのか…。それとも、何かの拍子

にピシッと鳴った床のきしみが、事件の前兆

なのか…。疑ってしまえば、壁に伸びている

自分の影ですら怪しく感じられてくる。

 「くそ、何も起こらねえな…!」

 イライラした裕一が吐き捨てるように言う

のは無理もなかった。得体のしれない静けさ

ほど、人を不安にさせるものはない。

 「どういうことなのかしら…?」

 美貴の表情が戸惑いに曇る。

 だが、何も起こる様子はない…。

 「仕方ないわね。ここはあきらめた方がい

いみたい」

 バタンと美貴はピアノのふたを閉じた。

 やはり、学校の怪談はウワサに過ぎなかっ

たのだろうか…。生徒たちがウワサしている

「夜の王様」などは、やっぱりいないのかも

しれない。…だとすれば、理科室で鳴美をお

びえさせたものは何だったのだろうか…。

 ビデオに映っていたあの恐怖に満ちた目。

 一体、鳴美は何を見ていたのだろうか?

 そして、あの後、何が起こったのか?

 結局、疑問は疑問のままで残ってしまった

ということなのか。そのことが美貴の気持ち

を暗くさせていた。怪談を信じていないにし

ろ、この音楽室で何も得られなかったのが美

貴にはショックだった。

 「とりあえず、少し写真でも撮っておくこ

とにするよ」

 裕一はカメラを手にすると、音楽室のあち

こちを写真におさめはじめた。

 「学校の怪談と言っても、やっぱりウワサ

にすぎないのもあるみたいね」

 部屋に響くシャッター音を耳にしながら、

美貴はそうつぶやいた。

 「まあ、そんなもんだろ。これで心霊写真

でも撮れてりゃ、いいんだけどね」

 「壁の汚れを撮って、人の顔が写ってるな

んて言うのは駄目よ」

 「キツいなぁ。そう思って見てくれれば、

普通の写真も心霊写真になるのに」

 「ダメよ。インチキカメラマンにでも、な

りたいの?」

 そう言われて裕一は苦笑をうかべつつ、15

枚ほどの写真を撮り終えた。

 「こんなもんでいいかな?」

 「何かが撮れてると、いいけどね」

 「そりゃ、現像してからのお楽しみさ」

 裕一がカメラをポンとたたく。その仕草に

つられて、美貴も微笑む。裕一が美貴を元気

づけようとして、明るく振る舞っているのが

わかる。そんな優しさが、美貴にはとてもう

れしかった。

 「うん。じゃあ、あまり遅くなると先生に

怒られちゃうから」

 「そうだね」

 二人は音楽室を出ることにした。

 外に出て、ガチャリとカギをかける。

 「これでよし、と。じゃあ、帰ろ」

 「ああ」

 二人が音楽室を後にして、廊下を歩きはじ

めた時だった。

 ポオォォン…。

 ほんの微かな音を耳にした気がして、美貴

は振り向いた。

 「ね、ねえ。今、音がしなかった?」

 そう言われて、裕一も耳をすませる。

 「音がした?」

 「うん。ピアノの音みたいなの…」

 耳に神経を集中して、微かな物音も聞きも

らさないように注意する。

 だが、何の音も聞こえはしなかった。

 「ううん。何も…」

 「そう…。気のせいだったのかな」

 「じゃないの? 意識しすぎだよ」

 「そうかもしれないね。ゴメン」

 美貴はそう言って、照れくさそうな笑顔を

浮かべた。そして、二人は音楽室の前から離

れたのだった。

 

 「美貴!」

 昇降口の所まで来た時、そう声がした。

 見ると、理恵が下駄箱の所に立っている。

 「あれぇ、理恵じゃない。どうしたの?」

 「美貴こそ、どうしたの。もう下校だよ」

 理恵は美貴のそばまで来て、裕一を見ると

軽くペコリとした。礼儀正しいと言うか、人

づきあいが下手なのか、よく分からない。

 裕一もつられて、ペコリと頭をさげる。そ

の様子に、美貴は思わず笑ってしまった。

 「ちょっと、クラブでね。理恵だって、珍

しいじゃない。こんな時間まで」

 「うん。図書室で本を読んでたら、遅くな

っちゃって」

 「そうなんだ。ちょっと待ってて、カギを

返したら一緒に帰るから」

 美貴が走りだそうとした時、裕一が呼び止

めた。

 「悪い。忘れ物しちゃったよ」

 見ると、カメラのキャップがない。

 「カギを貸してくれる?俺、ちょっと行っ

て、取ってくるからさ」

 「じゃあ、飯島くんがカギを返しておいて

くれる?」

 「ああ。ちゃんと返しておくよ」

 そう言ってカギを受け取った裕一は、階段

をまた登っていった。それを見送りながら、

理恵が不思議そうな顔をする。

 「あれって、音楽室のカギじゃないの?」

 「そうよ」

 「放送部って、音楽室を使うの?」

 聞かれて、美貴はちょっと困った。まさか

怪談の取材をするために音楽室にいたと言っ

たら、理恵がいい顔をするはずがない。

 「ちょ、ちょっとね」

 誤魔化すような反応の仕方に、理恵は察し

がついてしまったようだ。

 「…まだ、怪談を追っかけているの?」

 理恵の顔がとたんに曇る。

 「う、ううん。ちょっとだけだよ。見に行

ってみたんだけど、何にもなかったよ」

 「何も?」

 「うん。全然、怪談のカの字もなかったわ

よ。やっぱり、ただのウワサみたい」

 美貴が笑って言うと、理恵もホッとしたよ

うな表情になる。

 「良かった。でもね、美貴…」

 「なあに、理恵」

 「もう、学校の怪談なんか調べたりしたら

ダメだよ」

 また始まった…。そう思って、ついつい渋

い顔になってしまう。理恵も美貴がイヤがっ

ているのは分かっているが、それでも言わな

ければいけないと思っていた。

 「夜の王様の力が、少しずつ大きくなって

きているの。私はそう感じるのよ。だから、

これ以上関わると、とんでもない事になって

しまう気がするのよ」

 「……」

 「美貴だって、変に感じてるでしょ。鳴美

ちゃんの事件だって、あったし…」

 「あれがそうだとは、わからないわよ」

 「ううん。あれは絶対に夜の王様の仕業な

のよ。だから、美貴も」

 「わかった!わかったから」

 美貴は話を打ち切った。そうでもしないと

何となく、理恵とケンカしてしまいそうな予

感がしたからであった。

 「美貴…」

 心配そうな理恵の顔を見て、美貴は笑顔を

作りながら反省した。自分がイライラしてい

るからといって、理恵にあたる理由はない。

 「ゴメン。理恵が心配してくれるのは、よ

く分かってるから…」

 「私こそ、変なことばっかり言ってゴメン

ね。怒った?」

 「ううん。じゃ、帰ろうよ」

 いいタイミングで下校を告げるチャイムが

鳴り、二人は肩をそろえて、学校を後にする

のであった。

 

 キーン、コーン、カーン、コーン…。

 鳴り響くチャイムの音に、裕一は時計を見

た。音楽室の教壇の上にかけられている時計

の針は、午後4時半を示していた。

 「おっと、もうこんな時間かよ」

 急いで、カメラのキャップを探す。音楽室

の中を見回すと、それはすぐに見つかった。

 一番前の列に並んでいるエレクトーンの上

にポツンと置かれている。どうやら、写真を

撮っていた時につい置いてしまったようだ。

 「何も考えないで、その辺に置いちゃうの

は悪いクセだよなぁ…」

 ボヤきながら、キャップを手に拾い上げる

と、カメラへとはめ込む。カチッという音が

小さく響いた。

 「それにしても、いざ一人になってみると

気持ちのいいもんじゃないね」

 部屋の中を見回して、つぶやく。

 誰もいない教室なんかにいると、ついつい

ひとり言が多くなってしまうものだ。

 「さて、帰るか」

 裕一がそう言って、部屋を出ようとした時

であった。

 ポオォォン…。

 部屋の中に、いきなり音が響いた。

 ビクッとして、裕一が身構える。その音は

確かにピアノの方から聞こえた。

 「おいおい、かんべんしてくれよ…」

 だが、その声はどことなく震えをおびてい

る。言いようのない不安が、心の奥からこみ

あげてくるのを感じていた。

 そう言えば、美貴が音楽室を出た時にも、

変な音がしなかったか、などと言っていたよ

うな気がする。裕一の耳には聞こえなかった

ので、単なる空耳だと思っていたのだが…。

 「俺まで、気にしすぎなのかなぁ」

 その後は全く音がしないので、さっきのは

気のせいだったのだと自分に言い聞かせる。

 しかし、それは無意味であった。

 ポオォォン、ポロオォォン…。

 再び、鼓膜に音が届きはじめたのである。

 その音は確かにピアノから聞こえていた。

 フタの閉まったピアノ。当然であるが、そ

こには誰も座っていない。だが、聞こえる。

 「おいおい…」

 裕一は、誰も座っていないピアノに向かっ

て話しかけてしまった。そうしてしまうほど

に、裕一の気持ちはパニックに陥っていた。

 「やめろよ…。冗談じゃないぜ…」

 ポロォォン、ポロォォン…。

 裕一の言葉に対する返事は、無情にもピア

ノの音で返ってきてしまった。

 ゴクリとつばを呑む裕一。その足は小刻み

に震えている。

 シャアアン!

 今度は楽器室の方から音がした。シンバル

の音のようであった。

 ドオオオン…!

 続いて聞こえたのは、大太鼓の音だった。

 夕闇が翳りを落とす中で始まった演奏会。

 それは悪夢のようなコンサートであった。

 フタの閉じたピアノから流れだすメロディ

に合わせるように、シンバルや大太鼓が鳴り

響く。だが、そこに演奏者の姿はない…。

 「う、うるさい。や、や、やめろよっ!」

 叫ぶ裕一。だが、その文句をどこの誰が聞

いてくれるというのだろうか。そう、彼の目

の前には、誰もいないのだから…。

 「!」

 自分を見つめる視線を感じて、裕一は振り

返った。教室の後ろから感じる視線だ。

 「誰だ?」

 問いかけても、もちろん誰もいない。なら

ば、その視線はどこから来ているのか?

 その疑問はあっさりと解決した。

 裕一は気づいた。

  彼を見つめるたくさんの目を。

  それは確かにあった。

 ベートーベン、モーツァルト、シューマン

にバッハ、メンデルスゾーン、チャイコフス

キー、などなど。音楽室によくある有名な作

曲家の肖像画であった。その目が裕一を一斉

に見つめていたのであった。

 その視線から逃れるように、窓の方へと逃

げる裕一。だが、それを追うようにして、大

作曲家たちの目がギョロリと一斉に動く。

 「ウワアァァ…」

 叫びにならない悲鳴がもれた。

 窓の外には、いつもと変わらないグラウン

ドの様子や街並みが見えている。だが、この

音楽室の中は全く別の世界になってしまって

いた。それが妙に恐ろしい…。

 たぶん、この音楽室の中で鳴っているピア

ノの音やシンバルの音は、全く外には聞こえ

ていないのだ。裕一はなんとなく、それが分

かってしまった。つまり、誰も助けてはくれ

ないのだ。

 「ちっくしょおぉ!」

 窓際の隅に置かれていた譜面台を手に握り

しめるや、裕一は肖像画めがけて突進した。

 振り下ろされるアルミパイプ製の譜面台が

肖像画を切り裂く。ベートーベンなどの大作

曲家たちは、ことごとく細かな紙片となって

床にばら蒔かれていった。

 肩で息をはずませながら、裕一はピアノの

方を見た。だが、演奏は止まらない。

 「くそぉ、どうなってんだよ?」

 キィィ…、キィィ…、キィィ…。

 追い打ちをかけるように、並んでいるエレ

クトーンのフタが次々に開きはじめる。はじ

の方から順番に次々と…。

 目に見えない演奏家たちは、裕一のために

壮大なコンサートをしてくれるようだった。

 悪夢と題されたコンサートを。

 「ウワアァァァァッッ」

 ようやく出た叫び声だったが、それと同時

に鳴り響いたエレクトーンの大合奏の波にの

みこまれるようにして、かき消される。

 空気をビリビリと震わせる大音量に、耳を

ふさぐ裕一。だが、いかなる妖異のなせる業

なのだろうか…。音は、ふさいだ耳を通り越

して、直接頭の中に響いてくるのだった。

 その洪水のような音の中で、裕一の意識は

徐々に途切れていく…。

 その薄れる意識の奥で、裕一は誰かが笑っ

ているのを感じていた…。

 

 クスクスクス…。楽しいね、彼は…。

 何処にいるかも分からぬ声が言った。

 クスクスクス…。もっと、遊びたいね。

 誰かもわからない声が聞こえてくる。

 クスクスクス…。来てもらおうか?

 無邪気な声が、不気味な提案をする。

 その声がした途端、ジャーンとピアノをた

たきつけるような音がして、全ての演奏は終

了した。静けさが音楽室に戻ってくる。

 だが、そこに裕一の姿はなかった…。

 

                            つづく