注1
自社オリジナルアニメ製作にとどまらず、日本のアニメ作品の韓国語版製作や、
ライセンスビジネスも手がける。
韓国映画における特撮の起源は日本と同様に戦争映画と考えられる(現調査
段階では詳細は不明)が、記録上の最初の特撮作品と考えられるのは、『透明
人間の最後(1963年)』と思われる。本格的な特撮映画にと呼べる作品は196
7年の『怪獣ヨンガリ』あたりから始まるが、日本や米国のように多くの作品
が製作されることはなかった。
ところが1986年にキム・チョンギ監督(注2)がコメディアンのシム・ヒ
ョンレ(注3)主演で製作した『ウレメ』シリーズによって、一大転機が訪れる。
驚異的な興行で、それまで人気のあった劇場用アニメに取って代わり、大部分
のコメディアンが副業で特撮に出演したというほど多くの特撮作品が製作され、
ビデオ業界で日本の70年代特撮物が大ヒットするという現象が起こり、この
ブームは1991年頃まで続く。
シム・ヒョンレはその後、製作・監督もこなし、『ヨング』シリーズ(注4)
を始めする多数の作品を製作する。そして1999年、『ヨンガリ』をリメイ
クして話題を集めた。
注2
韓国の有名なアニメ監督。根強いファンを持つロボットアニメ「テコンV」シ
リーズの監督であり多数のアニメ作品を監督するが、低品質の作品を乱発して
いるため、決して高い評価を得ている訳ではないようだ。
注3
韓国の有名コメディアン。韓国では絶大な人気を誇っていた(日本にたとえる
なら「欽ちゃん」に匹敵するらしい)。映画の主演や監督・製作をこなすも、
低品質の作品を乱発したため評価は低い。
『ヨンガリ(1999)』の製作によって韓国政府公認「新知識人」に認定された。
注4
シム・ヒョンレ演ずる「ヨング」と犬の「テンチリ」を主人公とするシリーズ
で、元々は大元動画で製作した作品だった。
韓国特撮を語る上で避けて通れない作品。前述のように、80年代後半から
の特撮ブームのきっかけとなった。
「特撮」ではあるが、ロボットの戦闘シーンになるとアニメになる(感覚的
には「アステカイザー」?)。その他にも、スチールアニメを使用するなどピ
ープロテイスト漂うテクニックも使用されている。
韓国のアニメ製作関係者に「ウレメ」の話をすると、ものすご〜く嫌な顔を
されることから、いかにひどい作品かが判る。
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外界から来たウレメ(1986年)
カラー/80分/35mm 監督:キム・チョンギ 主演:シム・ヒョンレ 『忍者戦士飛影』の鳳雷王の玩具をミニチュ
|
○『ウレメ』シリーズリスト
1.外界から来たウレメ (1986)
2.外界から来たウレメ2 (1986)
3.外界から来たウレメ電撃3作戦 (1987)
4.ウレメ4弾サンダーV出動 (1987)
5.ニューマシンウレメ5 (1988)
6.第3世代ウレメ6 (1989)
7.帰ってきたウレメ7 (1992)
8.エスパーマンとウレメ8 (1993) ※ビデオ発売のみ
○『ニューマシンウレメ5』に登場するロボットの模型。
『ダイアクロン』のビッグパワード(日東科学製と思われる)を
コピーして改造した物である。
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スパークマン(1988年)
カラー/90分/35mm 監督:キム・ギョンシク 主演:シム・ヒョンレ |
大畑晃一氏の「世界トホホ…」でも紹介された作品。全編特撮という作品は
韓国では少なく(ロボットシーンがアニメになるパターンが殆ど)、本作もロ
ボットの着ぐるみが製作されているものの、戦闘シーンにはアニメも使用され
ている。
ヒーローは東映のメタルヒーローに酷似していて(「スピルバン」あたり)、
ロボットはタカラの「ダイアクロン」シリーズがモチーフになっているようで
ある。
ちなみに主演のシム・ヒョンレ氏は、韓国の有名なコメディアンである。こ
のほかにも数々の特撮映画を主演・監督している。(それらのほとんどが前述
の本によると「トホホ」らしいのだが、私は未見のためコメント出来ない)
韓国アニメの歴史はCFから始まり、1967年最初の劇場用長篇アニメ『
ホンギルド』が製作される。その後少しずつ劇場用アニメが製作されていたが、
1976年にキム・チョンギ監督『ロボットテコンV』(注5)の大ヒットによ
り第1次劇場アニメブームが起こる。この頃は大量のアニメが発表され傑作も
輩出されたが、金儲け主義の盗用作品が横行する結果となった(注6)。しかし
このブームは、起こした本人の手により終演を迎える。前述『ウレメ』シリー
ズを始めとする特撮ブームである。こうして第1次劇場アニメブームは終わり、
ソウルオリンピックを期に87年からアニメはTV作品へと移行する。(注7)
ところで、韓国の特撮作品の特徴として、ロボットの出てくるシーンが全て
アニメになってしまうと言うことが上げられる。これは、
・キム・チョンギがアニメの監督だった
・着ぐるみ製作のノウハウがない
・特撮のノウハウがない
ことが要因であると考えられる。結局、80年代後半の特撮ブームは、アニメ
の歴史に組み込まれる形が妥当であると言えるだろう。
注5
韓国で最も人気のあるロボット。『マジンガーZ』にインスパイアされて製作
された。名前の通り、テコンドーを使用する。
注6
韓国は日本文化に対する鎖国政策を取っていたため、日本のアニメをパクった
作品が多数製作される結果となった。また、軍事政権下におけるマンガの弾圧
等も合わせ、韓国アニメの競争力低下を招き、未だに悪影響を及ぼしていると
言える。
注7
初の韓国製作TVアニメシリーズは『走れハニー!(1988)』で、大元動画の製
作である。それまで韓国では日本やアメリカの作品を放送していた。
韓国ではそれまで子供向けTV番組はアニメ作品がほとんどで(『ボンフリ
ー』や『コセイドン』などが放送されたことがあるらしい)、国産の特撮作品
は存在しなかったが、米国でヒットした『パワーレンジャー』が1997年に
韓国で放送されヒット(注8)、これに前後して大元動画で『SUPER COMMANDOS』
という作品が企画される。主人公は、タイガー=韓国人でテコンドー、イーグ
ル=白人でボクシング、ベアー=黒人でレスリングを使うといった構成だった
が、後に現在の『ベクターマン』の形に落ち着く。
韓国初の特撮番組ということもあり第1部は全13話で製作され、好評を博
したため、翌99年に劇場版及び第2部全13話が放映された。
注8
日本の作品ということが発覚、3ヶ月で放送打ち切りになったらしい。
●正しい発音
「ベクターマン」の劇中での正確な発音は「ベクタメン」である。
複数形では違和感を感じるため、本解説では「ベクターマン」とし
ている。間違っても「ベクトルマン」などと言ってはいけない。
●感性の違い
三勇士を象徴する動物は虎(タイガー)、鷲(イーグル)、熊(
ベアー)である。日本との動物選択、デザインの感性の違いが興味
深い。
●変身
日本のように高度な技術を使用しているわけではないが、主人公
達の気合いの入れ方が格好良い。変身のかけ声は、「ベクターメン、
パワーオン!(タイガー、イーグル、ベアー)」。(注9)
第10話より変身パターンがグレードアップしている。
●ロボット
ジャイアントロボの変形は非常に単純なのだが、CGによる変形
プロセスの演出が非常に優れているため、それを感じさせない。変
形シーンは2種類存在するが、いずれも素晴らしい。また操縦者に
よって顔が変形し、必殺技が異なるという演出は斬新である。
劇中での呼び方は「ジャイアントロボ」で、発進のかけ声は「ベク
ターマンジャイアント発進!」である。
●ロボットの戦闘
本作におけるロボットの戦闘シーンは、ブルーバック撮影にCG
の背景を合成している。背景は異世界となっていて、「いつのまに
異世界へ?」とツッコミを入れたくなるが、雰囲気は良い。
●名称
作品中のキャラクターの名称は、「子供にもわかりやすく」と言
う配慮から、ストレートなものが多い。放送局である国営放送のK
BSがこういった事にかなりうるさいようである。
●声優
本作では声を全て「声優」が当てている。出演俳優が新人ばかり
で、演技力が拙いということらしい。なお、韓国のベテラン人気声
優が声を当てている。
●「勇士」or「戦士」?
以前、電撃ホビーマガジンで紹介したときには「地球戦士」と表
記したが、正式なタイトルは「地球勇士」の方である。
ホビーマガジンで紹介した際には「日本で放送するなら?」と仮
定して紹介する為に、音感の良くない名称を修正した結果このよう
になっている。
注9
「タイガー、イーグル、ベアー」の部分は3人が同時に叫ぶので、
非常に聞きづらい。