マーヴィン・ゲイの繊細な部分は、様々なところで語られているが、1961年にモータウンが買収した「グレイストーン・ボールルーム」で行われていた特別ショウ「スター・バトル」での出来事は、想像するだけで胸が痛くなる。「スター・バトル」はアーティストを対決させる意味で交互にショウをする。より観客を沸せたアーティストが勝者となる。
その夜は、マーヴィン・ゲイとリトル・スティーヴィーの対決だった。マーヴィンが多くのヒットを持っていたのに対し、スティーヴィーには「フィンガーティップス」1曲しかヒットがなかった。しかし彼らは、共に強力なライヴァル同志だった。スティーヴィーがハーモニカを吹きまくり観客を熱狂させれば、マーヴィンはその日の為に、狂ったように練習したメロディカで観客全員を爆発させる。素晴らしい対決だった・・・途中までは・・・。
第2ラウンド、マーヴィンはできること全てを出し切ろうとステージに上がる。ところが、客席から歓声に混じってブーイングが巻き起こってしまう。『マーヴィン、そんな小さな目の見えない子供相手に本気になって、恥を知れ!』
苦痛が隠し切れない微笑みを浮かべながらも、マーヴィンは次の曲を歌おうとするが、B・Gはステージに飛び出ていってマイクを取り上げ、マーヴィンをその場から解放した。
B・Gは観客にショウの終りを告げ、ステージを降りたマーヴィンを追い掛ける。そして、楽屋で頭を抱え込み座り込んでいる彼を見つけた。隣に座りながらも、互いに無言のまま時間が過ぎ、B・Gは、自分の最悪の過ちを思う。
競走とは、時として悪い面がある。特に組み合わせを間違えた戦いをさせてはいけないのだ。
これが、「グレイストーン・ボールルーム」での最後の「スター・バトル」となった。 |