釣り人に一言

 古い話で恐縮ですが10年ほど前、千代川水系のとある峪の魚止めの滝の上流にイワナを放流しました この上流200mにさらに大きな、地図にも載っていない20m滝を発見し (後に国土地理院に連絡し現在は掲載されています) この滝壺に大イワナが遊泳する姿をどうしても見たかったのです。
 シーズンのほとんどをこの峪の釣行に費やし活かし缶に今日は5匹次回は10匹と持ち上がり滝壺に放流しました。 次の年、7寸ほどに成長したイワナの姿を見て「ここをイワナの楽園にしたいな」と友人と語り合ったものです。
ところがさらに次の年、この渓が雑誌に紹介されてから状況が一変しました。GW明けの5月初旬一年ぶり にこの渓を訪ねた私は言葉を失ってしまいました。
 下流の種沢でもチビ岩魚の魚信すらなく嫌な気分になっていたのですが不安は的中しました。 旧魚止め滝の河原にはビールの空き缶が転がり たき火跡には燃え残った弁当の残骸、 さらに浅場には食い散らかされたチビイワナの骨や内臓が散乱し一年前の自然の姿は見る影もありません。 滝の上流では魚信すらありませんでした。
 …あれから数年、私はこの渓を訪ねていません。 (もう回復しているだろうか?放流したイワナは子孫を残しているだろうか) 懐かしいような期待の反面あの惨状を再び目にするのが恐ろしく、 私はこの峪を訪ねる勇気が出ないのです。
 千代川水系には上流の、さらにもっと上流にも野生のイワナが棲息しています。 これは餌の少ない源流で必死に行き続けるイワナの生命力は言うに及ばず、 先人たちが苦労を重ね移植放流をなされた結果であると私には思えるのです。
 昨年6月、千代川水系で私の釣友が46pの岩魚を釣り上げました。 彼はアルバムにそのときの 一枚の写真を残しただけでどこの雑誌にも新聞にも結果を公開しませんでした。  私には彼の気持ちがよく解ります。マナーを守れない釣り人には渓流にきて欲しくありませんから。

発言者:尾崎 渓重 様 yossy@net135.or.jp

※ 渓流釣りが「アウトドア」と呼ばれるようになってからどうも釣り人の川に対する態度が おかしくなったのではないでしょうか。うまく表現しにくいのですが、川に対して感謝の気持 ちのようなものが不足しているような感じです。しかし最近の「アウトドアマン」の勢いたるや すさまじく、山奥の渓流の河原に四駆で乗り付けテントを張り(そこまではいいが)カーステを ガンガン鳴らしながら打ち上げ花火を始めたときには、あきれて、その無粋すぎる神経の持ち主に 感心するほどでした。もちろんその後始末は我々の仕事でした。もうマナー以前の問題です。
 千代川に野生のイワナが棲息しているというのは聞いてはいますが、やはりいるのですね。 イワナの棲息南限ははっきりとは 知りませんが中部のあたりと言われているはずです。温暖化が進んでいるにもかかわらず 環境に適応していくイワナの生命力には驚きます。(K.N)