時にはコンピュータの話を

長いよ。文字ばっかだよ。<絵の付けようもないし。

藤原は造船屋(見習い)ですが、一応コンピュータの知識らしきモノもあるにはあります。
ホントに大したことないんですがね。一応は勉強をしつつあります。
何故ならその必要があるからです。
こちら造船は重厚長大の代名詞、あちらコンピュータは軽薄短小の代名詞。
今一つリンクが弱い気もいたします。
実際、現IHIの会長まで務めた人が、ある電機会社のトップとして招かれて、
「なぜ100個作った半導体のうち1個しか動かないんだ。
タンカーを100ぱい造って1ぱいしか動きませんでした、なんて話は聞いたことがない!」
というようなことを言ってた時代もあるようです。
(昔の話です。出典:NHK「電子立国日本の自叙伝」、だったかな?)

しかしながら本当のところでは、日本の各業種の中で、造船業が最も早くコンピュータを導入したんだそうです。
造船所という所は、膨大な枚数の図面を書いてはとんでもない量の鉄板を切ったり貼ったりしているので、そいつらを管理したり、できれば作業を自動化する必要があったためです。
今では、データベースに入ってる過去の船の情報をもとに、CAD(Computer Aided Design:コンピュータでやる設計・製図)で船を一そう設計し、データを工場に送ると、自動的に鋼板を切ってまっすぐな溶接くらいはやってくれる、という所までは来ています。
しかしながら、韓国人と叩き合いを続けている日本の造船屋としましては、その程度では給料が高い分負けてしまうわけで。
次に出来そうなことは何じゃいな、とがりがりやっています。

で、今の流行は「職人芸をコンピュータで出来ないかな」、ということです。
例えば鋼板を3次元の曲面に曲げ加工する際、この道ン十年のおじさんが、ガスバーナの炎で鋼板にうまい具合な線を描いてやると見事設計図通りの曲面が出来る、というのが今までのやり方でした。
もし、炎の強さと描くべき線の形がコンピュータで求められたら、この作業が自動化できます。
そうなりゃ、おじさんが定年退職した後でも会社は安泰です。
取りあえずこの件については、あちこちの造船会社でうまくいきつつあるようです。

で、私事に参りますが。
昨春に藤原たちのとこに来たのが、
「船体ブロック工場のラインで建造するブロックの順番を、コンピュータで決められないだろうか?」
というネタでした。

ええと、船というものを造船所で造るとき、船体を「ブロック」という単位に分けて地上の工場で流れ作業で造り、それを船台やドックの上で積み木のように積み上げて船体にするわけです。
「流れ作業」というと、自動車工場とかをイメージされると思いますが、ブロック1つ1つがとても重いです。
300tくらいのブロックは平気で存在します。
しかも船体のいろんな部分ですから、1つ1つのブロックは形が違います。
カローラとミニカとオデッセイを一緒のラインで造ってるようなものです。
だもんで、うまい順序でラインにブロックを流してやらないと、各職場の作業量が均一にならず、ある工程ではおじさんが汗水たらしまくってるのに、ある工程では暇で暇でおじさん煙草吸うより仕方がない、ということになります。
ラインにブロックを流す順番は、今は匠の技というやつで決めています。
でも、何せ時間がかかる上、おじさんはもう歳なのでいつ定年が来るか分からない。
ぢゃコンピュータでやってみようか、ということになって回りまわって僕らのところに来たわけです。

とりあえず、コンピュータ上に簡単な工場を作って、仮想の順序で仮想のブロックが流れるようにしました。
シミュレーション、て奴です。
で、シムおじさん達が忙しすぎたり暇しすぎたりしている度合いに応じて、ペナルティポイントを付けます。
ブロックを流す順序を変えて、このポイントが最小となる順序を探すわけですが。
単純にごりごり調べるだけでは、良い答が見つかることは期待できません。
(やりたければやっても構わないのですが、「1ヶ月分のブロック順序を調べつくすのに Pentium II 400MHz を使って宇宙の年齢より長い時間がかかる」ようだったのでやめました。)
仕方がないので、「最適化手法」というものを使いました。
要するに、良さそうな答が見つかったらそれを少し変えて調べる、というようなもんです。
SA法とかGA法とか色々使ってやってみましたが、まぁよいでしょう。

1年間の研究の成果として、分かったことがいろいろありまして。
まぁこれはそれなりに有効なんではなかろうか、
もう少しセンス良くプログラミングをして、もっと速いコンピュータを使えば実際の応用も不可能ではないかもしれない。という感触が得られましたが。
要するに、
「この問題はおじさんの職人芸に任せとくのが一番」
な気がします。今のところは。
でも、来年度の僕のネタはこれの続きをやるつもりです。
放り出したら、何か悔しいですから。

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