
推進係数と申しますのは、船舶の抵抗の大きさと主機出力との関係を
示す係数です。もう少し短く書くと、
「
フネの抵抗と主機出力の関係」です。
大して短くなりませんね。

例えば「大和」の速力は27kt、主機出力は15万馬力、
そんなことは日本人なら誰でも知っている知識です。
さて、「大和」の舳先ににロープをくくり付けて15万馬力で引っ張った場合、
はたして27ktで走るか...と申しますと、実はそれ以上の速力で走ってしまいます。
(多分)

と言うのは大雑把に言うと、
主機出力が主軸を回して巡り巡って船体を推し進めるまでの間に、
かなり多くのロスが発生しているからです。

「大和」に搭載された4基の艦本式ギヤードタービンの発生した
15万馬力分の回転エネルギは、おのおの主軸に伝達されます。
主軸には軸受などが付いていますので、
まずは摩擦やら何やらでロスが生じます。

やっとこプロペラまで来た馬力ですが、
プロペラがぶん回って推力を得る作用というのは
あまり効率の良いものではありませんで、
ここでも幾らかロスが出ます。

運良く推力になった分の馬力ですが、プロペラの前に
船体がある影響を受けるので、船体を推し進めるまでにまたまたロスを生じます。
この辺かなりいいかげんに書いてます。
厳密に書くと伴流利得とか面倒くさいんだもん。
これらの関門をくぐり抜けた分の馬力だけが、
船体を推し進める力、即ち船体抵抗と釣り合う分となることを許されています。
その関係を示すのが、「推進係数」なわけです。

なお、一口に「主機出力」と言っても、タービンの「軸馬力:SHP」と
ディーゼルの「制動馬力:BHP」とレシプロの「指示馬力:IHP」がありまして、
それぞれ定義が異なりますので、同一の土俵で扱ってはいけません。
混ぜるな危険です。
そのためここより下の文章では「主機出力:HP」という形で記述します。

で、
船体抵抗に打ち勝って船体を推進させるのに
有効に使われた馬力を有効馬力としてEHPで表わす
ことになっています。

速度V(m/sec)で走る船体の抵抗がR(kgf)であったとき、有効馬力EHP(PS)は、
となります。(仏馬力の場合)

こうして単位が揃ったので、抵抗と主機出力の関係が示せます。
すなわち有効馬力EHP(PS)と主機出力HP(PS)の関係は、
推進効率をηとして、
と定義されます。式を見て頂ければ分かりますが、
推進係数は大きい方が良いです。

抵抗係数と同様、
推進係数も速度によって異なる
という困った事情を抱えています。
もっとも、速度の増加とともに遥かなる果てを目指し出すような振る舞いはしません。
まずは一安心ですね。