やってきました幼稚園選びの季節。毎年9月になると周囲がザワザワしはじめて、10月になると願書をもらいに走る。そして、園をしぼって11月1日提出。ここ横浜の都筑区は、子どもが多いこともあって、受付に徹夜で並ぶ姿がテレビで報道されるくらいです。周囲の雰囲気にのせられて、ちょっと、自分を見失いがちにもなるでしょう。
 そこで、以前この時期におかあさん方から問われた質問をとりあげて、私流に答えてみることにします。「正しい考え」ではなく、「あいこ流」の考えです。一昨年の第7回の分とあわせて、「あなた流」の考えをみつける参考にしていただければ幸いです。

Q:2年保育と3年保育、どちらにしようか迷っています。どうせなら、早いうちから通わせて、慣れさせたほうがいいでしょうか?
A:なにが早いうちからだといいのですか? 
「集団生活を通して、社会性や協調性を身につける」ということですか? 人生80年のうち、ただ今3年。いまから社会性を身につけておかないと、あとの77年が苦労するんでしょうか?
 そんな先のことを考えるより、今、「子どもが子どもを欲しているかどうか」を見ることでしょう。幼稚園は申し込んでから半年後に入るのですから、今は確かに、ちょっと予測はつきにくいでしょうけれど、まずは、子どもにとってどうなのかを考えましょう。

 親だけでは満足できない状態ですか? 
 親つきであそばせていると親のブレーキが子どもにかかって、燃焼できなさそうですか?
 親がついていても子ども集団の中に入れませんか?
 親に隠れて、じっと他の子を見ているタイプですか?

 つぎに親のことを考えましょう。
 24時間一緒は疲れますか? もう、どっかに行って欲しいですか? 
 それとも、まだ心配で手放すなんて、いやですか?

 つまり、子どもの様子と親の気持ちで決めるのです。

 子どもは外に向かってる。親も外に出したい。これは文句無しに、幼稚園。
 子どもは外に向かってる。親は心配で手元においておきたい。これは、幼稚園ではなく親参加型の自主保育などのグループをお勧めします。(地域にあるかどうかは、役所にたずねるといいでしょう。保健所なども情報をもっているかもしれません)
 子どもはよその子どもにびくびくしてる。親は外に向かってる。これは、幼稚園ではなくやはり、自主保育グループなり、親がすっきりできるサークルなどに参加する。もし、幼稚園を選ぶなら、人数の少ない園の方がいいでしょう。大勢の園では、圧倒されてしまいます。
 子どもはまだ子どものあそびに欲がない。親もじっくり子どもと付き合いたい。これはもちろん幼稚園に行かずに、ふたりの時間を大事にしてください。あせらないで大丈夫。

 子育てのことは、子どものことを考えるのも大事ですけれど、親自身のことも大事にしたほうがいいです。無理すると「せっかく、子どものためにと思ったのに」と、恩きせがましい気持ちになったり、思いどおりにいかないことにイライラしますからね。自分を全部ゆずらなくていいんです。でも、子どものことを無視して親のわがままや考えだけで振り回すのは、これまた、子どもに失礼です。ほどほどの歩み寄りといったところでしょうかね。

 ところで、3歳と4歳というこの1年はかなり違います。3歳はご存じのように、第一反抗期とか、自我の目覚めとか言われるように「自分」「自分」の時期です。この時期に自分を肯定されることが、自分の足で歩きはじめる一歩になっていくと思います。
 ですから、この時期は自分を否定されるような指導は好ましくないと思います。社会性と思っていることが、実は言われるままに動けるようになったにすぎないかも知れないのです。活発で、子どもを求めているから3歳児で幼稚園に入れようと思うなら、管理のきつい整然とした園は避けたほうがいいでしょう。社会性や協調性は、もう少し大きくなってからで十分だと私は考えています。
 3歳児の、自我が強く感性が豊かになる時期をすぎて、4歳児になると、だいたいの子どもは人間ぽくなって(今の私たち大人が想像できる人のかたち)、自ら周りを見て状況がわかるようになりますから、集団生活に入るのも容易になっています。

Q:幼稚園に入るまでに、教えておくことや練習させておいたほうがいいことがありますか? 読み書きは、幼稚園に入ってからでも大丈夫ですか?
A:幼稚園に入るために何かができないといけないようなら、子どもにとってはそんなとこは行きたくないに決まっています。そのために親ががんばらないといけないなら、親子関係がよくなくなってしまいます。いまのままを受け入れてくれる幼稚園を選んだほうがいいでしょう。読み書きは、今の一般的な環境にあるなら6歳くらいに興味をもつことになるでしょうから、その時期で十分だと思います。早く教えたからといって、ずっと、ひとより先に進むということはありません。いずれ、読み書きできるようになります。本人が興味を持ったときが学ぶときです。

近くにある幼稚園の保育方針に納得ができません。でも、遠いと地域の子どもとあそべないし、子どもがかわいそうかとも思います。内容に妥協してでも、近くのみんなが行くところにしたほうがいいでしょうか?
:近くにあって、そこの方針にも魅力を感じて……というのが、ベストですよね。でも、そうはいかないときは、あなたの価値観しだいでしょう。でも、みんなが行くからということで、あなたが我慢をして選んだ場合は、入ってからも「だから、ここはいやだった」とか、不満をひきずります。保育者不信にもなりますから、子どもも幼稚園を好きになれないことにもなります。
「幼稚園は歩いて行く範囲」と自分の意思が決まっているなら、あとは欲をださず「幼稚園は子どもがいっぱいいればいい」と、割り切ることです。
 遠くの気に入った幼稚園を選ぶなら、あなたの意識の中で地域を大事に生活していけばいいでしょう。いずれ小学校に行き、2学期にでもなれば、遠くの園に行ったことはそれほど影響しないと思いますよ。
 親が迷って子どもに「どっちがいい?」と、決めさせることは避けて欲しいと思います。幼稚園がどういうことろなのかわからない幼い子どもには、何を基準に選べばよいかなんてわかりません。遊具がキラキラしているのが魅力で「ここがいい」と言う子もいるでしょう。ところが、入ったらそんなのどうでもいいことになります。まだ体験したこともないことを、子どもは予測することはできませんからね。私としては、まだ、親の手の中にいる幼児は、やっぱり、親がわが子にとっていいと思える園を選んでほしいと思います。

 かつて、りんごの木を卒業していった親のひとりがこう言ってました。
「小学校に行ってみると、きちんとした幼稚園から来た子も、自由のびのびの幼稚園から来た子も、どの子がどの幼稚園から来たかなんてわかりません。きちんとした園から来てもふらふら歩いている子もいます。自由な園から来た子できちんと座っている子もいます。壁にかかっている絵も、2年生にもなると個人差以外の園の差なんてわかりません。どの子もみんな子どもだなぁと思います。じゃあ、どこでもいいかというとやっぱり違います。私は園を見た中で、わが子がここで楽しい毎日を送ってほしい。ここで、自分のふるさとになるようなときを過ごしてほしい。この2年間は私から子どもへのプレゼントと思って来させました」
 そう、先のことを考えると、絶対安心なんて子育ての方法はないんです。あなたの子どもを見て、あなたの感じた『よかれ』と、思うことをしていくよりないのではないでしょうか。
 園の方針には、とってもすばらしいことが書いてあります。たしかに、園は目標をもって保育していきます。けれど、園に入れたからといって、どの子も目標通りの子どもになるわけではないのです。幼稚園は魔法はつかえません!

Q:何をするにも遅い子です。どんくさい……と言うのでしょうか。親としては、もう少し活発な子になってほしいので、のんびりした幼稚園よりも、運動教育に力を入れているきびきびした幼稚園に入れたほうがいいでしょうか?
A:あなた自身が、もし、運動が苦手だったとします。毎日、運動する時間が長いところに通わなければならないとしたら、喜んで行けますか? いやになっちゃいそうでしょ? 
 あなたが静かにしているのが苦手だったとします。毎日、座っている時間が長かったらどうですか? いやになっちゃうでしょ?
 親は、子どもの苦手なところをなんとかしてあげたいと思いがちですけれど、それは、子どもには苦痛でしかありません。それより、その子に合ったところのほうが、楽しめるでしょう。なにしろ毎日行くんですから、いやなところじゃストレスがたまって、家で発散することになります。わが子の特徴にあった園のほうがいいと思いますよ。
 それに、子どもは変わります。発展途上にあるんです。今、活発でなくても、やがて活発になる時期を迎える子どももいます。いま活発でも、やがて、落ちついてじっくり取り組む時期を迎える子どももいます。先々を考えすぎていじくりまわすと、本来のその子どもの成長する力を奪い取りかねません。それぞれの今の段階には、今のよさがあるものです。ちょっと、見方をかえてあげてください。 

Q:幼稚園に行かせるよりも、音楽や英会話、スイミング、体操、バレエ、能力開発など、それぞれ個別の専門の教室に行かせたほうが、子の才能を伸ばしてあげられて、時間をむだにしないですむのではないでしょうか。幼稚園(保育園)でないと学べないことってなんですか?
A:人の心です。人間はどんなに優れた能力や体力や技術を持っていても、一人で生きてはいけない動物です。いっけん無駄と思える、子ども同士の関係の中で、けんかしたり、泣いたり、わらったり、仲良くなったりという日々の中で、いろんな人がいることや、それぞれ人にの気持ちや心があることを学んでいきます。「専門の」教室は先生と生徒という縦の関係でしかありません。幼稚園(保育園)は子ども同士という横の関係の中で、人間関係のつけかたを知っていくのです。
 もし、あなたの職場の中でやり手の上司を持ったとしても、その人が人間的な魅力がなければ、心地よい職場にはならないでしょう? 目には見えない、その人のあたたかさや人間性があなたの職場を心地よくし、あなたの能力が発揮できるようになるのではないですか? 

 その人間性の土台を形成していくのが、子どもたち集団なのだと思います。世界で1、2番になる天才的な人間を育てて行きたいなら違うかもしれませんが、一般的には、もう少し大きくなって、子ども自身がほんとにやりたいこと、学びたいことができたなら、きっと全力投球するでしょう。それからでも、十分間に合うことのほうが多いのではないでしょうか。

(イラスト/松村千鶴)

もどる

もくじに戻る