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私の記憶の範囲内ですが、「どういうこどもに育ってほしいか?」という親の希望のベストスリーに、『おもいやりのあるこども』というのが、入っていなかったことはなかったような気がします。それだけ、人として生きていくうえで、おもいやり・やさしさというのは大切な、価値のあるものと考えている人が多いということでしょう。 「公園で泣いている子がいるのに、ぜんぜん気にしないんです。となりで平気であそんでいるんです。どうしたの? と聞いてあげられる子になってほしい」「平気で他の子のおもちゃをとってしまい、その子が泣いているのにやめようとしないんです」「使ってもいないのに、おもちゃを貸してあげられないんです」という、2、3歳児をもつおかあさん。 どれもこれも、性急におもいやり(やさしさ)を要求しすぎですよ。自己主張まっさかりの3歳なんて、自分中心に地球がまわっているんですから、自分の気持ちはよくわかるけれど、人に気持ちがあるなんてあんまり気づいていない。どう逆立ちしても、幼児が人の気持ちをわがことのように思いはかるなんてできません。 おもいやりが育っていくのは、だいたいは次のような順序ではないでしょうか。 自分以外の人にも気持ちがあるということに気づくこと。(これがおもいやりの種ですね。) ひとつひとつのステップには、山ほどたくさんの体験を通しての成長が必要となるでしょう。 けっして促成栽培できるものじゃないですよね。 ここで注意したいのは、この場合の人(相手)というのは漠然とした一般人ではありません。私たちおとなだって、新聞でお気の毒な記事を読んでおもいやるのと、身内に起きたこととでは、雲泥の差がありますよね。こどもが小さければなおさらのこと。相手に気持ちがあることとか、相手が泣くと心が痛むとか、相手が喜ぶとうれしいという『相手』は、かなり関係の強い人でなければおこりにくいものです。 ・・・たとえば、こどもが留守番をしていたときに、雨がふってきた。こどもは洗濯物に気づいて、部屋の中にとりこんでくれたとする。帰ってきたおかあさんは、あらよかったわと思うと同時に、こんなクチャクチャに置いとかないで、どうせならたたんでくれればよかったのに、とか、まだ乾いていないんだから、部屋の中にかけておいてくれればよかったのに、と思うことがある。「ありがとうね。でも、こんどこんなことになったときは、たたんでおいてくれると、もっとうれしいな」と、くるわけ。 友だちはなんと、この話を15年もおぼえていてくれたのです。先日、「わたし、あれ以来、ずーっと心がけてるの。仕事もしているからなおのこと、共に思いやる家族でいたいからね。おかげで、いいこどもたちよ。ありがとう」と言われて、びっくりしました。(言った本人はすっかり忘れていました) だい好きなおかあさんが自分のしたことで、素直に喜んでくれればうれしいですよね。無意識に行動したら相手がすごく喜んでくれた。そのことが自分にはとてもうれしかった。あったかい、いい気分。幼いこどもの場合は特に、このパターンが多いかもしれません。 逆の場合もあります。おかあさんにいやなことがあって、こどもに八つ当たりしてしまう。そんなときは、冷静になったら「さっきはごめんね。おかあさんいやなことがあったんだ。それで、あなたに八つ当たりしちゃった。でも、おかげでちょっと気分が落ちついたわ。あなたに悪かったけれど、ありがとうね」と、ぎゅっと抱きしめてあげたらいい。こうすれば、さっきの八つ当たりは、こどもにとって決して迷惑なことにはならなかったのではないでしょうか。おかあさんのいやな気持ちを引き受けてあげたことになるのですからね。 こどもはだれだって親が好きですし、親に好かれたいと思っています。親がなにを喜び、なにに怒り、なにに悲しむのか、いつも気にかかっています。そして、なるべくだったら、親がほめてくれる姿を見せたいと思っています。このことは、いやでもいやじゃなくても、そういうものなんです。 そして二歩目は、親自身がおもいやりのある態度をみせること。これがむずかしい! こどもの前で<すてきなおとな>をしていないような気がしませんか? こう考えると、こどもだけにおもいやりのある人に育ってほしいと願うのは無理、ということなんでしょうね。わが子だからやさしくできない。わが子だからやさしくなってほしい。あら、大変! 自分自身も心がけなけりゃならないし、さらに、こどもをよく見て、反応してあげなくちゃならないってことですね。 うーん! そこには、わたしがかかってる! 私が親友とよびたい友だちがいます。その人は、私が20歳のとき「夜間の専門学校に通って、幼稚園の先生になりたい」と話したら「あなたが夜学校に通いつづけて免許をとれるとは思わないわ。だって、途中で挫折した人をたくさん知っているもの。それに先生という仕事は、大事なたいへんな仕事なのよ」と言いました。私の計画を喜んでくれない友だちにびっくりしましたけれど、意地っ張りでしたから「ぜったい、やり通してみる」と、決心しました。学校にかよっている間、彼女はだまってみてくれていたのでしょう、連絡もありませんでしたが、免許をとったとき、涙を流さんばかりに「よくやったね。わたしの人生の流れをかえるくらいに感激したよ」と、言ってくれました。私の性格を知っての彼女のやり方に、とても感激しました。そして、ありがたかった。今でも、感謝しています。 人をおもいやるというのは、本当にむずかしい。 イラスト/松村千鶴(りんごの木) |
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