暦のうえでの新年は1月ですけれど、日本で生活している私たちにとって、特に学校などに関係しているおとなやこどもは、4月が新年のような気がします。新しいことを迎える月です。
 新しいことはワクワクするけれど、ドキドキもしますよね。
 幼いこどもたちは、ワクワクドキドキが表情や態度にすぐ表れます。
 幼稚園、保育園に入園したてのこどもをお持ちの方、どうですか?
 泣いている子もいるでしょう? 
 怒っている子もいるでしょう? どうして、あんなところに行かなくちゃいけないのかって。
 ルンルンとうれしそうにしている子もいるでしょう。待っていました! こどものせかい!って感じ。
 朝は(大決心がいるので)大泣きするのに、迎えにいくとケロッとしている子もいるでしょうね。

 そんなこどもの表情に、一喜一憂するのが、親というものかもしれません。
「どうして、泣くのかしら」
「どうして、泣かないのかしら」
「いつまで泣くのかしら」
「今に泣くのではないかしら」
「先生はうちのこどもをちゃんと見てくれているのかしら」
「乱暴な子にやられてやしないかしら」
「よその子をいじめてやしないかしら」
 親の想像は際限なくひろがっていきます。
 新しいことは不安をともなうものです。でもね、こどもが幼稚園や保育園になじんで、こどもの世界で楽しんでほしいでしょ? 親以外の保育者という人に、こどもの育ちを援助してほしいと思ったんでしょ? だ・か・ら、ここはひとふんばり。親が不安になっていたんじゃしょうがありません。
「こどもを園にまかす。こどもは今になじむ」と信じ、6月ぐらいまではひたすら前を向いていきましょう。

 りんごの木から幼稚園の4歳児クラスに行ったじゅんちゃんは、一学期いっぱい抵抗しました。パジャマをぬがない、靴をはかない、制服をハサミで切る。
 親はそれでも、毎日ひきずって連れていきました。
 そこまでして?
 そう、迎えにいくといい顔してるから。そして、若いけれど先生が必死にじゅんちゃんを迎えようとしているのがわかるから。そして、この子はやんちゃでいたずらで、こどもの世界をなにより欲していることが、わかっていたからかもしれません。
 こんな例もありますから、まぁ、一学期をめどに考えていたほうがいいかもしれませんね。
「新しい世界」が「日常」になるには、時間がかかるんです。
 新入園、新入学の親子だけが、新しいわけではありません。いままで行っていた公園のメンバーが学校や幼稚園に入って変わったり、集まる時間帯が変わったり、親の転勤でご近所のあそび仲間が変わったり、いろんな新しいことが起こっている時期です。

 親の不安はさておいて、こどもの表情の変化をみましょう。そして、どう対応したらいいか考えてみましょう。 

 たとえば、毎朝泣くこどもだとしますね。
 一番多いのは、理由を聞くおかあさん。
「どうして、泣くの? 言ってごらん、言わなくちゃわかんないでしょ」
 聞くと、こどもは答えます。
「だって、いじわるする子がいるんだもん」
「じゃぁ、その子とあそばなければいいでしょ!」
「だって、だって、どこにくつ入れればいいか、わかんないんだもん」
「マークがついているでしょ!」
 どんどん、質問と答えはつづきます。でも、これは、聞かれるから何か言わなければと、つぎつぎ考えだして言ってるにすぎないのです。
 こどももよくわからないんです、なぜ、泣いているのか。
 ただ、心が大嵐のようになっているんです。

 つぎに多いのは、泣かないでどうにか過ごしてくるこどもを持つおかあさんで、自分に見えていないことを聞きたがります。
「きょうはなにしたの?」
「うーんと、わすれた」
「なにかしたでしょ? おうたうたったの? 先生とあそんだの?」
「うーんと、わすれた」
 必死にすごしているから、まだ、なにをしている、なにをして楽しかったかなど、認識できていないんです。そのときで精一杯なのです。
 どうも手応えがえられないと、こう言います。
「あしたは、泣かないでね」
「泣いたら、先生に嫌われちゃうよ」
「泣く子は幼稚園にいけないんだから」
「あしたはなにしてあそんだか、おはなししてね」
「ママ心配なんだから」
 これって、脅迫してるみたい。
「がんばれ、がんばれ」という人もいます。激励されても、急になじむわけじゃないですよね。

 じゃぁ、どうすればいいのかって? そう、こどもの気持ちに添うだけでいいんじゃないかしら。
「はじめてのところはドキドキしちゃうね。泣きたくなっちゃうんだよね。でも、だいじょうぶ。いまに泣かなくても平気になっちゃうから」
「いろんなこどもがいて、びっくりしちゃうよね」
っていう感じで、こどもの気持ちを、おかあさんが口にだして言ってみる。そうすると、分かってくれてるという安心感ができて、自分をとりもどすということです。

 以前のこと、1年生になったばかりのこどもが、毎日おもらしをして帰ってきました。
 おかあさんはびっくりして、
「おもらしなんかしたら、みんなにきらわれちゃうわよ」
「どうして、いままでしたことないのに、しちゃうの!」
「おしっこしたくなったら、先生にいいなさい」
と、話しましたけれど、止まりませんでした。でも、
「一年生になったばかりだから、体も心をカチカチなんだね。でも、いまに慣れてきたら、おもらししなくなるからだいじょうぶ。出ちゃったら気持ち悪いでしょ。先生に言っても言わなくてもいいから、取り替えるといいよ」
と、ビニール袋と雑巾とパンツをランドセルの中に入れてあげたら、あっという間におもらししなくなりました。

 そうです。だれでも、自分のありのままを受け止めてくれる人がいると、本来の自分が取り戻せるのではないでしょうか。そして、本人が今の自分を克服していくんです。いけるんです。

 おとなだってそうですね。新しい環境や人間関係にぎくしゃくするけれど、そのイライラや不安を聞き、受けとめてくれる人がいると、新しいことを受け入れていく心の扉がだんだん開いていく。そして、時とともに自分らしさがだせるようになっていく。
 新しいことのイライラや八つ当たりをふくめて、こどもの気持ちを受け止め、時を待ちましょう。
 新しいことを迎えて楽しければ、次におこる新しいことにも『だいじょうぶ』と思えます。新しいことの積み重ねが、やがて、新しいことを、ちょっとのドキドキといっぱいのワクワクで、迎えられるようになるかもしれません。

イラスト/松村千鶴(りんごの木)

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