柴田愛子 ill Takasima.N   

 なんと26年ぶりに、幼稚園に勤めていた頃に担任していた子どもから、メールをもらいました。すでに子どもであるわけはなく、りっぱなおとなで、4歳の子どものお母さんになっていました。
 このところ彼女のように、二十数年ぶりの元・子どもから、なつかしいお便りをいただきます。自分の子が幼稚園年齢になって、自分の幼稚園時代を重ね合わすのでしょうか、なつかしくなるようです。
 今回お便りをいただいたゆりちゃんは、お母さんの後ろに隠れながら、まん丸い目をキョトキョトさせていた子です。お母さんは元気いっぱい、表情豊かでおしゃべり好きでした。でも、ゆりちゃんの大きな声は聞いたことがないような気がします。
 こんな事が書かれていました。
「わが子が人見知りで、自分からお友だちを誘ったりできない。引っ込み思案で心配している」

 たまたま、ご実家の電話番号がわかったので、かけてみました。なんとこれまた、たまたま、実家にあそびに来ていたということで、26年ぶりに生のおしゃべりができたというわけです。
 私の記憶しているゆりちゃんの話をすると、
「そうなんです。人前で話すことは嫌いでした」
「お母さんは、誰とでも、仲よくおしゃべりする方だったわね」と私が言うと、
「はい。だから、いつもちゃんと話しなさい、ちゃんと挨拶しなさいと、うるさく言われました」
「そのとき、どんな気持ちがしたか、覚えている?」と聞きますと、
「すごくよく覚えています。お母さんに言われるのが、とってもイヤでした」
「いま、あなたは人見知りですか?」
「いいえ」
「お母さんのようになられた?」と聞くと、なんと、
「まあ、そうですね。似ているかもしれません」というお答え。
「あなたのお子さんね、きっと、あなたに似ているのね」と話しました。
「だいじょうぶですね!」って、本人から言っていました。

 ついこの前、家ではおしゃべりなのに外ではものも言わない、と心配なさっているご両親とお目にかかりました。
 外で他の子に振り回され、我慢しているから、家ではものすごく乱暴になったりする。ストレスがたまるのでしょうが、大丈夫でしょうか、ともおっしゃっていました。ご両親ともに静かで穏やかな方でした。
「失礼ですけど、あなたも引っ込み思案だったのではないですか?」とお聞きすると、ハッとした顔になり、
「その通りです」とおっしゃいました。

 家ではうるさいほどにしゃべるのに、外に行くと一言もしゃべらないという子は、時々います。
 かれこれ4年前くらいになるでしょうか、忘れられないのは、ひろこちゃん。3歳児のほぼ1年間、一言もしゃべりませんでした。
 かといって、表情がないわけではなく、不便もありませんでした。欲しいものは指を指したり、おとなの手首をつかんで欲しいことを知らせたりします。
 手をかえ品をかえ、しゃべるように誘導しましたが、彼女の口は堅く結ばれていました。保育時間が終わって、入り口の階段を降りたとたん、お母さんに向かって「きょうはね、ひまりちゃんとあそんだの」と饒舌になるのにはあきれてしまいましたし、こちらの無力感を感じましたが、どうにもなりませんでした。画期的な何があったわけでもなく、3学期終了間際にしゃべり始めました。訳はわかりません。ただ、本人の中には訳はあるのでしょう。その訳は意識されていることなのか、無意識なのかは知るよしもありません。

 たくさんの子どもたちと接してきて、思います。子どもによかれと思い、苦労しないようにと助けてあげたくても、今のその子の状態(性格)を画期的に変えることはできないのです。今の状態にも、私たちにわからない本人の気持ち(訳)があり、それが変わっていくには、本人が年月をかけて気持ちを動かしていくより仕方ないのです。だから、とりあえず今の状態をよしとして、あせらせず、自分の気持ちをちゃんと感じることができるようにしてあげたいと。そして、どうもDNAのなせる技も大きいような気がします。
 ご自分の幼い頃をどんどん思い出して、子育ての参考になさってくださいな!



BACK-NUMBER もくじへもどる

もどる