柴田愛子 ill Takasima.N   

 アレルギーで、皮膚に湿疹が出てかゆくなり、皮膚科に行きました。
 ドアーを開けると、3歳前後の男の子とベビーカーに乗せた赤ちゃんを連れてきているお母さんがいました。
 元気そうな男の子は手に袋を持ち、お菓子を食べています。午前10時です。やがて食べ終わってしまいました。あっちに行ったり、こっちに行ったり、ごろごろしたり・・・・お母さんは気になって、居心地悪そうです。

 そのうち、赤ちゃんまで「あー、あー」とおしゃべりを始めました。うるさく泣いているわけではないのですが「しー」と口元に手を当てます。ここまで気をつかっていては大変。気の毒で、とうとう声をかけました。
「おはなししているのよね。静かにしなくてもだいじょうぶ」と、赤ちゃんとお母さんに向かって言いました。
 お兄ちゃんが食べていたおやつも、きっとじっと静かにさせるためのものだったのでしょう。
「きみ、元気だねぇ」と子どもに声をかけると、ちょっと照れながら、お母さんの背中にもぐってしまいました。
 でも、変なおばさんに興味を持ったようです。顔を半分出しました。そして、なんと私に向かって「くそばばあ!」と。
 驚いたのはお母さんのほう。
「すみません」と私に言い、振り返って子どもに、
「ダメでしょう!」
 アセ・アセです。
 私は子どものこういう表現になれていますから、腹立たしくはありません。
 腕白な子って、ちょっとやさしげにすると、一歩近寄ってくるんです。そして、パンチして反応を見ます。
「くそばばあ」は、私が嫌いであっちに行けと思っているわけではなく、私の様子を見ようとして使ったのだと思います。
「だいっきらい」とか「あっちいけ!」という言葉も使ったりします。
 保育者であっても、慣れないうちはこんな言葉に傷ついてしまいます。でも、これはイヌに近寄ったら「ワン!」と吠えられたのと同じようなものです。言葉に驚いてこちらが手を引いてしまうと、子どもは一歩さがってしまい、関係はうまれません。反応を確かめたかったのに、返ってこなかったのですからね。こういう表現に、おとなが慣れるよりしかたありません。
 私は「くそじじぃ!」と、返しました。ニコッと笑顔が返ってきました。
 お母さんはあきれていたようですが、バツの悪そうな感じはとれました。

「どうして、うちの子は、こんなに、ちょろちょろしているんでしょう」と、言います。
「あら、子どもがじっと待っていられるはずはないじゃない?」と言うと、
「でも、ほら、あの子のように、じっとすわって本を読んでもらっている子もいるのに・・」
 なるほど、奥の方を見ると、やはり3歳くらいの男の子が、母の隣にぴっちりくっついてすわり、本を読んでもらっていました。
「あーいう子もいるけど、こーいう子もいるのよ。でも、ちっともいけない子じゃないわよ」と話していたら、看護婦さんに「しばたさーん」と呼ばれてしまいました。

 病院の待合室も、子連れにとっては大変な場所なのですね。混んでいて、待ち時間が長ければなおのこと。
「どうしてる?」とお母さんたちに聞きましたら、
「おやつをもっていく」
 これは、周りにひんしゅくの目で見られるが、さわぎまわるよりはいいということでした。
「待ち時間を聞いて、外に連れ出す」
 賢い方法ですが、冬は大変ね。それぞれに工夫しているようです。

 子ども連れの待合室があればいいのにね。せめて、絨毯を敷いたようなコーナーがあるだけでも違いますよね。
 子育て支援でいろんな試みがされているけれど、病院に子どもコーナーを作る支援があるといいですね。
 小児科だけでなく、皮膚科や耳鼻科、外科、歯科にもね。


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