柴田愛子   

 りんごの木の前を、いつも車いすで通る方がいます。
 多少登り坂になっていることもあり、見かけると「押しましょうか?」と訊ねて手伝います。
 もう、すっかり知り合いになっていますので、子どもたちも見かけると手伝ったりしています。

 今日も、お買い物帰りで膝にスーパーの袋を抱えて、片手で力を込めて、重そうに車いすを走らせてきました。
 私が「こんにちは」と近づいていくと、いつしょに遊んでいた子ども3人も、とびついてきました。
 私が車いすを押そうとしたら、ひなちゃんが「わたしがやる」と言い「いーい?」って、その人に聞きました。
「おねがいします」と言われてうれしそうに押し始めました。
 おしゃべり好きなひなちゃんは、押しながら話しかけます。
「ねえ、あるけないの?」
「そうなんだよ」
「おじいさんなの?」
「おじいさんなんて言われたくないなあ。おじいさんじゃないよ」
「だって、あるけないんでしょう?」
「ひなちゃん、おじさんは足が動かないの。だから、車いすなんだよ」と、私が口を挟みました。
「いくつなの?」
「みんなのお父さんくらいだと思うな」
「うちのおとうさん、43だよ」
「うちは、47さい」
 わいわいと、子どもたちも会話に加わり始めました。
「まあそんなとこかな」と、おじさん。

 しばらくにぎやかに行くと、
「ありがとうね。もうここまででいい」とおじさんが言いました。
 ひなちゃんはおじさんの前に回りこみました。
 スーパーの袋から中のビールと牛乳が透けて見えていました。
「ビールかったの?」
「だれがのむの?」と、また興味の追求が。
 おじさんはニコニコしながら答えに窮していました。
「おじさん、ビール好きなんでしょ。夜飲むんだよ」と、私が代わりにお答えしました。
「じゃあね!」
「バイバイ!」
 子どもたちは、りんごの木のほうにかけてもどっていきました。
 おじさんは「バイバイ! バイバイ!」と、幸せそうな顔で見送ってくれていました。
 こんなふうに触れあえてうれしいと思いました。おじさんも子どもたちも、何も堅くならずに、自然にこんな会話ができるなんて、やっぱり子どもはいいですね。(5月15日記)

 写真=りんごの木の庭にて(本文とは関係ありません)。
 3月、4月と咲ききそったパンジーもそろそろおしまい。今年もままごとに、色水にといっぱい積みました。


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