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柴田 愛子
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木曜日、ザリガニ釣りに行きました。
バケツを持って、20分の道のりを歩いて、遊歩道沿いの小川(せせらぎ)に着きました。
糸の先にスルメを結び、小川にたらします。木を拾って、先に糸をゆわいて、たらす子もいます。
5歳児は石の陰や、穴の空いているところに糸をたらします。
未経験の4歳児は、流れのまん中に糸をたらし、1分もたたないうちに「つれなーい」と言い、川の中を歩いたり、木でピチャピチャしたりしてあそび始めます。
5歳のけいやくんとひろきくんは、ザリガニがいそうな穴を見つけ、入り口にスルメをたらします。ずーっとずーっとしゃがんで待ちます。
例年より寒いのでしょうか、まだ、あまりいないようです。とうとう、保育者の一人は石をどけ、手づかみで捕ってしまいました。
しばらくして、けいやくんが「とったー」と顔を輝かせています。
「あのね、さっきのあなのところのザリガニは、のぞくんだけど、でてこなかったから、ばしょをかえたらね、ザリガニがあるいていたんだよ。だから、スルメをぶらさげたら、すごくおなかがすいていたらしくて、くいついてきたの。ぼくがいとをもちあげても、きがつかなくて、バケツのなかにいれたんだ!」
もう、うれしくてうれしくて。みんなも集まってバケツの中をのぞきます。
ひろきくんは「ザリガニ、かえるとき、にがすんだよ」と、まるでお兄さんの口調で言いました。
「わかった」と、けいやくん。
「そろそろ帰ろうかー」の保育者の声が聞こえると、けいやくんがバケツから取り出そうとしました。
「うれしかったんでしょう? にがしちゃうの残念じゃない? お母さんに見せてからでもいいんじゃない?」と、私が言うと、
「うん、そうする」とうれしそうでした。
ひろきくんには悪かったかもしれないけれど、ひろきくんは悔しかったからああいうふうに言ったのかもしれないと思い、けいやくんの気持ちを汲んで言いました。
帰り道、歩きながらけいやくんはよくしゃべります。何度もザリガニを捕まえたときの実況中継をします。それが楽しくて、私も何度も聞きます。
「あのさ、さいごにまつも(保育者の愛称)につかまえてもらわなくてよかった。だって、さいごにおとなにやってもらうと、じぶんでつかまえたよりうれしくないもん」とも言い、満足顔を見せました。
もうひとり、捕まえた子がいます。しんぺいくん、4歳。
ザリガニを見つけ糸をたらしましたが、食いつき方が弱く、引き上げることができません。つかむこともできません。そこへひろきくんが、
「ぼくつかまえてあげようか? つかまえていい?」と聞きました。
「うん」としんぺいくんが答え、ひろきくんは手でひょっと捕まえて、バケツに入れました。喜んで二人でバケツを持って帰ります。ところがなんと移動中に脱皮をしました。到着したときには、バケツの中には、ザリガニと脱皮した殻のまるで二匹が入っているようです。
保育時間が終わり、家に帰る用意をしていたとき、しんぺいくんが泣いています。
「あのね、ひろきと、しんぺいと、ふたりがもってかえりたくてね。そしたら、ひろきが、ぼくがつかまえたんだから、しんぺいは、だっぴしたからをもっていけっていわれて、ないてるんだ」と、他の子が教えてくれました。さあ、どうしたらいいんでしょう。みんなの意見を聞きました。
「みつけたのはしんぺいだから、しんぺいがもっていく」
「つかまえたのはひろきだから、ひろきがもっていく」
「ふたりともほしいんだから、きょうはしんぺい、あしたはひろきがいい」
「どうしょうもないから、つかまえたところにもどす」
「じゃんけんできめる」
「どっちかが、がまんする」「がまんは、おおきいこがするものだ」
「もっと、ふたりではなしあう」
こんな意見が出ました。
みんなの意見を参考に、ふたりで話し合うことになりました。保育者一人と二人が狭い和室に入って相談です。
「きまったよー」と、出てきました。二人とも泣いた後の疲れた顔でした。
始めにしんぺいくんが、「もう、ぼく、いいや」と言ったそうです。
でも、それを聞いてひろきくんは喜べませんでした。
「ぼくだって、もっていくわけにはいかない」と言い、このザリガニは元の所に逃がすという結論でした。今度は全部自分の力で捕ることにしたそうです。なかったことにしたこの結論、今度こそという気持ち、なかなかいいじゃないですか!ネ。
明日天気だったら、お弁当持って行こうということにしました。
翌日の金曜日、あいにくの雨模様。でも、行ったそうです。
私は外出していて同行できなかったのですが、報告を受けました。
ひろきくんは、最初から最後まで自分だけで、大きなザリガニを釣り上げたんですって。やー、めでたしめでたし!
ところが、そのザリガニは脱皮したばかりで、身体が軟らかかった。ひろきくんは、そっと、元の場所に置いて帰ったそうです。
うーん、やるねー!(6月12日記)
写真=りんごの木の庭にて(2歳児クラス。本文とは関係ありません)。
庭のザクロの花が真っ盛りです。咲ききらないうちにボタボタと落ちてもきます。実がなるのは秋、ルビーのような真っ赤な粒がでできます。
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