タイトル

 10月10日にEテレで「すくすく子育て」が放映されました。りんごの木の子どもたちの映像が流れ、それにまつわることを、汐見稔幸さんと遠藤利彦さんと私で話すという内容でした。

 その映像のひとつに、りんごの木の5歳クラスの子どもが、自分の髪の毛を切って売るという「髪の毛屋さん」がありました。
 まず、これを見たときに関係者も「あ!」と声をあげたと聞きました。
 司会のくわばたりえさんはギョッとして、「これありですか?」とおっしゃいました。
 どうやら、世間一般では、子どもが髪の毛を切るというのは、とんでもないことのようです。

 そんなこともあって、このシーンが選ばれたのだとは思いますが、私としては驚いたり、困ったりはしませんでした。面白いとは思いましたけれどね。
 だって、昔からおとなの目をかすめて、子どもは髪を切ってきました。だからTVでも、
「いやがる子の髪を切っているわけでもなく、髪は切って痛いわけでもなく、いずれ伸びてくるんだからいいじゃないですか」と言いました。
 日常生活の中で、面白いと思ったり不思議と感じたりすることを、子どもはごっこ遊びで実現します。

 お料理をする姿を毎日見ていて「やってみたい」と、ごっこで実現するのがままごとです。

 お医者さんに行けば、お医者さんごっこが必ず登場しますし、妊婦のお母さんがいれば出産ごっこも流行ります。
 髪の毛も親や床屋さんに切ってもらっているでしょうから、髪の毛を切ってみたいというのは自然と思うことでしょう。
 でも、‘切る’というのはもとにもどらないだけに、なんとなく勇気がいることでもあるのです。
 
 そこで、この番組の収録以来、「子どもが髪の毛を切っていたらどうしますか?」と聞いてみています。
 園長の方々がお集まりのところでは、半数以上の方が「止める」でした。
「どうして?」に対しては「親のことが気になる」という返事をした方がいました。
 子ども自身が興味を持ってやったことでも、親は保育者に文句を言うのでしょうか。
 親は「もうすぐ七五三なのに」とか「せっかく、長い髪になったのに」とか、親の好みや都合ですよね。子どもは自分自身さえ、自分の思うようにしてはいけない? 
 知り合いのカメラマンのお子さんが、自分の髪や爪を切るとき「どこまでが、ぼく?」と聞いたそうです。私は髪も爪も、その人のものだと思います。髪を切って笑われたり、爪を切りすぎて痛かったりも含めて自分自身なのではないでしょうか? 
 もしかして、まだ乳幼児に関しては半分親のものという感覚なのでしょうか?

 

 森のようちえんや自然志向の方々の集まりのときは、質問を変えてみました。

「子どもの頃、自分で髪の毛を切ったことがある方?」
 半数以上の方の手が上がりました。
 現役保育士さんたちの会でも聞いてみました。すると、なんとたった4人しか手が上がりませんでした。
 3人は少し年配の方でしたので、若い方はひとりでした。
 保育者自身がそんなふうにあそんではいけない時代に育ってきたのなら、身についた常識になっているかもしれません。地域や年齢によっても違うかもしれませんが、私が‘普通’と思っていることが‘普通ではない’ことに少しショックです。
 でも、でも、子どもの遊びや探求心は、昔からたいして変わっていないように思うのですが……。
 映像の髪を切った子の母親に話したとき「あはは! 私もやりました」でおしまいでした。ホッとうれしかったのと同時に、その親だからこそこういうことができるのかもしれないとも思いました。(10月12日 記)

 

 再放送があります。ご覧になりたい方はどうぞ。

  Eテレ 16日(金)13:05〜13:34


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