8月26日、兄が亡くなりました。
 特発性間質性肺炎という聞き慣れない病気で、難病だそうです。 つまり原因がわからず、ということは治療法もなく、だんだん弱っていきました。

 でも、まだ食べれたし、少しは歩けたし、話やメールのやりとりもしていたので、頃合いを見計らって潔く逝ったような気もします。
 私は五人きょうだいの末っ子です。今回逝った兄は私の三歳年上、二学年上でした。五人が三歳違いなので、いちばん上とは十二歳も違いましたから、子どもの頃はいちばん近いきょうだいでした。
 家の近所は兄と同じような年齢の男の子ばかりでした。私はいっしょに遊べるわけではないのですが、くっついて歩いていました。だからベーゴマやメンコをやるのを側で見ていました。群れのお味噌でお邪魔虫。途中で撒かれて泣いて帰ったこともあります。入ってはいけない学校のグランドに塀を乗り越えて入って、管理人のおじさんに棒を持って「コラー!」と追いかけられたこともありました。缶蹴りや石蹴りができる頃になると、いっしょに遊べるようになりました。家での兄とのけんかは派手で、私はかなわないので大泣きしていました。原因なんて、ひとつも覚えていません!
 小学校時代に私がイヌを拾ってきて、兄がお祭りでヒヨコを買ってきて・・・・それがアヒルだったのですが。イヌとアヒル2羽がいつもいっしょにいました。兄は伝書鳩も13羽飼っていて毎朝鳩舎の掃除をしていました。だからどうも学校は遅刻していたようです。私は気が重いから遅刻でした。両親は遅刻をいけないと叱ることはありませんでした。
 近所の子どもたちがいつも遊びに来て、賑やかで楽しい家でした。
 兄はいつも目立つ人でした。水泳大会でも、リレーでも、生徒会長でもなんでも出るんです。出るのはいいのですが、必要以上に口をパクパクあけて泳いでいたり、腕をぐるぐる回しながら走ったり・・・そうそう、中学生のときは布のカバンを斜めにかけ、下駄を履いていました。下駄は危ないからと先生に言われたってなんのその、下駄は高校生まで続いたようです。言っておきますが、大正時代じゃないですよ。
 私は目立つ兄がいやでした。恥ずかしかったです。でも、嫌いじゃありません。仲もよかったと思います。
 大学生の時は中古の車を買い、迎えに来てくれました。けど、中から押さえていないとドアが開いてしまうので、乗っていても、おちおち座っていられませんでした。
 いつも常識にとらわれず、自由な兄がいちばん世間とのギャップを自覚したのは、社会人になってからだと思います。
 まず、背広を着ていきませんでした。帰宅して父に言いました。
「背広を着てこいって言うんだよ。どうして着なくちゃいけないんだろう」って。

 父は「そうか」とだけ言っていました。
 ある日は「会社でオスッって挨拶したら、おはようございますって言えって言われた。ボクは親しみを込めるとオスッの方がいいように思うんだけど」
 そんな話を横で聞いていました。こんなことだらけだった気がします。
 やがて彼は結婚してアメリカに行きました。通算すると16年行っていて、そのあと帰国して隣に家を建てて住んでいました。すでに20年以上にもなるのでしょうか。
 兄の友人が「天真爛漫」ていう言葉がピッタリ。細かいことにこだわらず、変なことやらかすのに嫌われないと言ってくれますが、ほんとにそんな人でした。いつでもどこでも自分のまんま。
 葬儀の時に彼の娘が「いろんな国に行って、いろんな文化があって、日本でも混乱した。わがままで自分勝手と言われて悩んでパパに相談したら、そういう人もいる、でも、そのわがままがいいという人もいる。だからあなたのままでいいと言ってくれてふっきれた。それからはどこの国に行っても大丈夫になったというエピソードを話しました。びっくりしました。たぶん、私も同じように言うだろうと思ったからです。つまり、我が家の中で培われた価値観はきょうだいみんなにいき渡っているのでしょう。親の影響ってすごいですね。
 亡くなるときも立ち会い、葬儀もしましたけど、悲しいという感情は不思議とありません。小さいときから天国に行くと言われてきたせいでしょうか? あっちの世界に知り合いが多くなったせいでしょうか? 私もあと何年であっちかなぁなんて思うからでしょうか? 
 兄と私の思い出は、きっと他の誰にも通じない時間です。兄とだって通じない私だけのものでしょう。でも、どこかに言いたくて、つれづれに書いてしまいました。
 毎回、兄はつれづれの感想をメールでよこしてくれていました。今回からは何も来なくて、寂しさが押し寄せてくるのかもしれません。

 さあ、二学期です。また、忙しいです。生きている間は目一杯頑張りましょう。あっちの世界からみんなに応援してもらいながら。 (9月3日 記)


 

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