連休明けの初日のことです。
 お母さんとお兄ちゃんに送られてきたかいちゃんは1歳10ヶ月の男の子。毎日家族で過ごしてきたのに、今日は自分だけ置いて行かれてしまいました。お母さんが「行きます!」とおっしゃったので、私が抱いてしまいました。
 泣きます。「ママー、ママー」

 抱き続けられないくらい身体を動かしますので、下に降ろしました。出入り口の木戸にしがみついて「ママー、ママー」。
「ママいっちゃったね。大好きだから悲しいね」と寄り添う言葉を言ったって、いっこうに泣き声は弱まらず、自転車で立ち去るママの背中に叫びます。
 もう、何を言っても、気を反らそうとしてもダメ。こちらの方が悲しくなってきます。
 私に何を言ってもダメと思ったのでしょう、かいちゃんが泣き止みました。ちょっと静かになったと思ったら「たっちゃん」と言って方向を変えました。たっちゃんと聞こえますが不明瞭、ともかく誰かを探しているようです。「いっしょに探しに行こうか」というと手を繋いできました。
 たっちゃんはだれ? 私は知らない子です
 建物を一周すると、最後にのぞいた部屋に、かいちゃんが靴を脱ぐのももどかしそうに上がっていきました。いました、いました、「さっちゃんが!」
 かいちゃんとは前からの知り合いです。さっちゃんに近づいていくと、事態を察知したかのように、かいちゃんを迎え入れています。あそびの手をとめて顔をあわせます。手を添えます。さっちゃんは翌日に2歳の迎えるのですが、かいちゃんと同じ1歳児です。こんなに幼い子が寄り添うようにしている姿に涙が出そうでした。
 ママーと泣いていたかいちゃんは、会えないことをさとりました。泣きながらも冷静に考えたのです。そして、さっちゃんの存在に気がつき探しました。やっと自分を救ってくれる存在に会えたのです。そして、同じような小さいさっちゃんが受けとめ慰めたのです。
 感動の物語で終わるかと思いきや、そうはいきませんでした。さっちゃんが他の子とあそび始めてしまったのです。かいちゃんは後ずさりしました。一歩、二歩と。さっちゃんは気になり近寄ってみますが、かいちゃんはべそをかき始めました。外に出ました。最初の出入り口で「ママー」と振り出しに戻ってしまいました。ひとりで立って外に向かって泣き続けているので、少しほっておきました。
 けなげにもさっちゃんは外に出てきました。他の保育者が声をかけます。みんながかいちゃんのことが気になって近づいたり離れたり。その度に訴えるようなまなざし。保育者にもかいちゃんの思いが伝わって切ない表情。「ノーはノーだからね!」と声をかけました。冷たいようだけど、ここで例外をつくると彼は混乱してしまうと思いました。子どもによっては外に連れ出して気分を変えて帰ってくるというやりかたをすることもありますが、かいちゃんには難しいと判断したのです。
 こんなに泣き続けるのは最長記録かもしれません。さすがに疲れた表情。
 保育者が抱きます。少し身体を動かしましたが身を委ねました。それからは、その保育者に向けるまなざしは絆を見つけたようにみえました。
 しばらくすると他の子がやっているように、葉っぱをとってビニール袋に入れて「おみやげ」。笑顔とはいきませんが、気分は落ち着いてあそび始め、お弁当も外で食べました。
 やがて、お母さんが迎えに来てほっとして、やれやれお疲れ様の一日でした。
 かいちゃんの葛藤は二時間近くにも及びました。私たち保育者でさえながーい時間に思えました。かいちゃんも保育者も偉い! そして、さっちゃんも。
 きっと、どこの園でも、子どもが馴染むまでこんな思いをしながらいることでしょう。子どもが親以外の人に守られていくまでにはやっぱり大きなハードルがあるのです。子どもの信頼を裏切ることなく順調に進めていきたいです。(5月13日 記)


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