ぬぬ

 少し前の話になります。
 りんごの木の側に黄色いゴミ収集車がきます。音楽がなって来ることもあり、2,3歳児は大急ぎで見に行きます。フェンスにしがみついて見ます。ありがたいことに、おじさんは手を振ってくれます。
 車の後部は大きな口を開け、おじさんが投げ込んだゴミをガーガーと飲み込んでいきます。
 子どもたちはゴミは汚いとか臭いとかなんて思っていません。魅力的な車とおじさんの動きに惹かれます。おじさんたちの様子を見てあこがれます。
 そして始まったのが、ゴミ収集車ごっこです。部屋の押し入れに、その辺の物を投げ込みます。おじさんのようにポンポンと。子どもたちはおじさんになりきっているのです。
 子どものごっこあそびはこんなふうに、大人の社会の魅力を感じたことを真似ることから始まります。おままごと、お家ごっこ、レストランごっこ、電車ごっこ、学校ごっこ……すべて、然りです。
 ゴミ収集車ごっこでは、側にある絵本も投げ込んでしまうのです。ともかくその辺にあるのはゴミなんですから、選別はしません。
 絵本を投げ込むことに戸惑った保育者は、どうしたいいかしらと、みんなに相談を持ちかけました。
 この場合は、どう考えたらいいのでしょう?
 考え方はいくつかあります。

 

 ①本は投げないでねと言う。本はあくまでも投げてはいけない。
 ②その遊び自体をやめさせる。だいたい周辺にあるのはゴミではない。
 ③折角たのしい遊びを思いついたのだから、良しとする
 ④そのあそびは保障したいので、投げられては困る本を違う場所に移動する。

 

 本を投げるというのは、おとなの大半がダメと言います。私だってただ投げる姿を見ていたら、やめてほしいと思います。しかし、子どもの行動はなにかしら必然があってのことだと思いますので、とりあえず見守っていることが多いです。この場合はちゃんとした根拠が見えます。子どもたちから自然発生した模倣遊びの重要性を何処まで感じるかということにもなります。ですから、私は③です。
 けれど、疑問を投げかけた保育者は、本が大事な人なので④にしました。
(その後、大きなダンボルーで外を走らせるゴミ収集車を子どもと一緒に作ってあそぶ方向へ保育者が舵を切りました)

 先日の「すくすく子育て」Eテレ番組で、ピアノの鍵盤上にミニカーを走らせた子どもが映りました。傷がついてしまいます。だから、私は取り上げました。彼はミニカーを取り戻そうとはしなかったので、ピアノの鍵盤を次々連打し、流れるように音を出したいのかもしれないと判断しました。だって、ミニカーを走らせるのが目的だったら私から取り戻そうとするでしょう? 
「手でしてみたら?」と、私もやってみましたら、子どもの手では痛そうです。そこで、柔らかめのカエルのぬいぐるみを渡しました。彼はそれを使って鍵盤を走らせて音を出しました。
 ピアノをミニカーで! と目にしたとたん「なにやってるの!」と怒られることが多いでしょう。子どもの真意はほんとにわかりにくいのです。特に年齢が小さい子はわかりにくいです。
 5歳くらいになると言葉で表現してくれますから、子どものやりたいことがわかりやすくはなりますけどね。でも、あきれることは山ほど……。

 少々極端な例を出してしまいましたが、子どものやりたい、子どもの主体性を尊重するって大変です。まず、家の中では気が遠くなる現実です。そんなもの保障できっこありません。
 せめて、保育現場や子どもの群れにあっては、可能かと思いますが、なかなかそうはいきません。対極に「しつけ」があるからです。
「本を投げるなんて!」「ピアノ(の鍵盤上)をミニカーで走らせるなんて!」
 現象を見ただけで判断されてしまいます。ダメなことはダメと教えなければと思うからです。
 子どもから発生するあそびは多かれ少なかれ、大人の価値観を無視します。反発しているのではなく自由すぎるのです。だからこそ、指導されるあそびより、はるかに輝き、発展し、続けられていくのです。
 私は「しつけは後回しにして!」と思ってしまいます。育ったら自ら身につけていきます。
 柔らかな子どもの発想と心を優先してほしい、だって、それは今しかないのです。それを保障することは、年齢にふさわしい体験をしていくことに繋がります。
 本来の頭と心と体を自分のものとして、大いに使い込みながら発達させることになると思うのです。
 子どもの保育・教育指針は「主体的」が叫ばれています。
 けれどその事に向き合っている現場はまだまだ少ないというのが、私の実感です。ちょっと憂えています。それでも、子どもたちの中には、おとなの目をかすめてやりたいことを実現する強者もいます。

 おとなたちは、ちょっと目をそらす隙間をもっていただきたいと、お願いしたい気持ちです。

                                          (11月18日 記)
 

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