ぬぬ

 近所ではめずらしく鉄筋コンクリートの三階建ての家がありました。そこに住んでいた人が引っ越して、解体作業が始まりました。そんなに近くはないのに、なんか、揺れます。家にいると地震なのかと思うくらいです。見に行ってみましたら、大変な作業。重機でコンクリートを壊すと、鉄の棒みたいのがニョキニョキでています。なんか神経みたいにあっちこっちに向いて、ツンツンともがいてるみたい。作るときには気づかなかったけど、壊すとなると大変なことなんですね。
 昔「ゴジラ」という映画を見ました。巨大な身体で都市をドンドンと歩いて、ビルなどを壊していくのですが、あれは違ってる? あんなふうに歩いたら足にあの鉄の棒が刺さるはずだと思うのですが、あの鉄の棒さえへし曲げていったのでしょうか? 福島の津波の威力、広島の原爆ドームなども浮かんできます。強靱? 安全? 不自然? この残骸はどこへ? と様々なことが浮かんだ光景でした。
 数日後揺れなくなったら、平地に戻っていました。建物がなくなったら小さな土地で、なにもなかったように柔らかな土になっていました。やっぱり本来の姿はホッとします。

 

 毎週金曜日はスタッフミーティングがあります。先週末は4、5歳児担当している人たちとこんな話をしました・・。
 私は「あこがれが人を育てる」と、ここ数年よく言っています。
「あこがれがあると育ちやすい」とも言えます。具体的な目標を掲げられるということですから。
 子どもたちを見ていると、ちょっと手の届きそうなことをしている子に興味をもち目が吸い寄せられます。
 水道の蛇口をひねって水を出している子を見ていたかと思うと、向かって行きます。同じようにやってみて、ニタッ! 
 年齢と共にハードルは高くなります。崖に登っている子を眩しそうに眺め、どうしようかなぁ、やってみようかなぁとしばらく観察。そして、チャレンジ! 
 木登りも、穴掘りも、折り紙も、縄跳びも、ほとんどのことが「すごい」「かっこいい」「やれるようになりたい」と心を動かし、その子を観察し、チャレンジするかどうか葛藤し、やると決めて一歩を踏み出します。黙って一歩を踏み出すのも勇気ですが、その子に「おしえて」というのも勇気です。
 あこがれ、挑戦、努力、結果という過程で育つ。だからこそ、群れが必要であり、子どもは子どもをみて育っていくのです。自分のスピードで、自分の求めているものに手をつけていく天才かと思います。
 第二子や三子はほっておいても育つのは、家の中にあこがれが充満しているからでしょう。

 ここまでは、身近にあるあこがれ。
 遠くにあるあこがれもあります。これはある程度年齢が高くなってからです。
 一番星のように遠くにあるけど、眺めて意識していくというようなもの。
 小中学生ならば、オリンピックやプロの体操選手、アーティスト、いろんな職業の人かもしれません。身近な親を含めたおとなの生き方のこともあるでしょう。
 私のことで具体的に言うと、そんなふうにあこがれる人が数人います。そのひとりは絵描きの堀文子さんです。「群れない 慣れない 頼らない」という彼女の生きる指針は、もう、かっこよくてあこがれていました。確か百歳で亡くなられましたが、私の気持ちは変わりません。つい最近まで「頼らない」は無理だし、頼れた方がいいと思っていましたけれど、ふと気がつきました。体力的には歳にはかなわないから頼らざるをえない、彼女が言っていたのは精神的に頼らない、依存しないということのように思い至りました。
 遠くのあこがれを目指すことで、今の生き方がぶれないということであり、自分をその方向に育てていくということでもあると思います。
 偉そうなことを恥ずかしげもなく書いてしまいましたのは、訳があります。 
 あこがれが育つ力になるけれど、それは与えるものではなく、本人が獲得していくものだということです。
 ついついおとなは教えたがります。その子の心が動かなくても、課題を出し、その通りにできると評価し、おとなが教えた実感に満足しがちです。それは、知的な学びや訓練を通して業は磨かれていくかもしれないけれど、内面の生きていく力や自信には繋がらないと思うのです。子どもがぼんやりしていると、つい、何か楽しいことをしてほしくなります。つい、あれこれ提供して充実した時間にさせようとおとながお節介をしがち。でも、そのときの子どもの心の動きは、おとなの路線に持って行かれてしまい、自分の気持ちに向き合えなくなってしまいます。だから、子どもが自ら動き出すのを待ってほしいのです。つまり、育つというのは、本人が主役なのです。それは子どももおとなも同じです。邪魔をしないことが、だいじと思っています。
 おとなが見本になるのを否定してはいません。頼ってきたら、それなりに応じてあげたらいいです。そして、たくさん、あこがらせてください。おとなってすごいんだからと、食いつかせて下さい。
 そして、おとな自身も、あこがれに一歩踏み出して輝いて下さい!(5月15日 記)

 

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