ぬぬ

  10日は運動会でした。
 コロナのことがはじまってから2回目です。
 5歳児の兄姉たちと重ならないように日程を配慮したら、10日・日曜日になりました。ところが警戒宣言中だと公園は借りられません。りんごの木は公園を借りてやるので、9月末までは運動会に向けての気持ちにはなりきれませんでした。少人数制の保育が続き、大勢の人が集うだけで子どもたちは萎縮してしまいそう。感染対策、いろんな問題を抱えながら、10月宣言解除で一気に前に進め! 短期間の準備でした。
 当日、グランドが湿るくらいの雨のあと、曇り後晴れとまずまずの運動会日和。
 プログラムはあるものの、いつものようになりゆき次第の運動会です。
 最初にやった体操「パワフルパワー」は初めて。前に立つ保育者をみて真似てはいますが、目が点。そうこうしているうちに終わっちゃった。なので、もう一回やりました。2回目は前より身体が動いてじょうず。
 次はグランドをただ走り回ります。回る方向だけ決めて、あとはただ走り続ける。これは子どもの身体も表情もほぐれます。いい顔になってきました。
 2、3歳児の子どもたちはかけっこをしました。ゴールは担任の保育者が両手を広げて待っています。親に抱かれて走る子も。まあ、これもありです。
 ところが、その後の「パン取り」になったとたん、走るんですから、子どもってげんきんです。(「パン食い」ならぬ「パン取り」は、走って行って洗濯ばさみに挟んである袋入りのパンをもぎとるのです。コロナで誕生した新種目)
 1歳の子はあんパンなんてしらないでしょうけど、食べ物というのがわかるんでしょうかね、走って行きます。
 小さい子どもたちの種目は、担任が日常の子どもの姿を見て考えます。今年は紐のついたかごを引っ張りながら、玉を入れたり、トンネル通ったりする「ひっぱってゴー!」 鬼に変身した担任に玉をぶつけてやっつけ、縄で結わいて連れて行くという「いざ、鬼たいじエイエイオー!」 懐かしい「桃太郎」の童謡をバックミュージックにしていました。
 大きい組は三つのグループごとに自分たちがやりたいことを数日にわたって考えてきました。最終的には各グループ3種目に決めました。決めてからやってみるのは3回くらいでしょうか。自分たちで決めるので、練習なんていらないのです。
て そのなかに、今までとは違うものがいくつか登場しました。「スポーツBチーム」と「アスレチック」という、言ってみれば障害物のように次々こなしていくものなのですが、選べるんです。例えば、跳び箱は高いのと低いもの、玉を投げ入れるかごも高いものと低いもの。木に見立てた段ボールに子どもが描いた虫や蝶、豚やアンパンマンが張り付いています(写真)。選んで虫網で捕ります。切った新聞紙がいっぱい入ったビニールプールに、ガチャガチャのカプセルが入っています。カプセルの中の宝物は‘さら砂’や石、シールなどです。どれもおもしろいのですが、選ぶのに時間がかかります。おまけに一人か二人ずつ走って行きます。その子らしさがでておもしろいのですが、運動会といえば競い合う、闘志に燃えるというのをイメージしますよね? そういう熱はあまりありません。
「綱引き」は、引っ張る相手は子どもたちの兄姉に出てきてもらって対抗するということになりました。仲間が分かれての対抗はいやだったようです。
 リレーは三グループ対抗になりましたが、グループによって闘争心のある子がいるグループとそれほどでもないグループがあり、昔のように負けると悔しがって泣くという姿はありません。
 穏やかなのか、競い合うのが嫌いなのか、負けたくないのか、失敗がいやなのか……考えてしまいました。この反対、闘争心が強く、勝負に挑む、みんなで団結して燃える……そういうのが運動会だった? この変化をどう考えたらいいのか戸惑っていました。
 リレーの練習のとき、毎回何周も負けているグループがありました。そこはじっくりタイプの子が多いチーム。そして、ダウン症という特徴をもった子がいます。走れないんじゃないんです。けど、途中で止まってしまうのです。せかされたり、手を繋がれたり、強要されることには拒否するんです。自分の意志に頑固で自由なのは魅力的です。
 でも、途中でしゃがまれてはたまりません。自覚を促したいと思い、両肩を持ち、顔を合わせ「○○ちゃん、途中で止まらないで! やるんならちゃんとやって。あなたが止まると次の人が走れない、みんなが悲しくなる」と、かなり強い言い方をしました。私を避けようとはせずに聞いてくれました。
 ところが、それを見ていただろう同じグループの子が一人やってきました。
 そして、「あいこさん、そんなにおこらなくても・・」と言うんです。
「だって、○○ちゃんのせいで遅くなるの嫌じゃないの?」と、私はまだ荒い口調。するとその子は「だいじょうぶ」と静かにひとこと。その後、三人で手を繋いで歩きました。いちばん情けないのは私でした。
 そして、当日、その子は見事な伴走をしました。触らない、引っ張らない、後ろから応援する。一周完走しました。家に帰ってから「まけたのはざんねんだったけど、みんながはしれてよかった」と言ったそうです。
 もうひとり特徴のある子がいます。その子にリレーはどうなのかを聞いたときも、子どもたちは言いました。
「○○ちゃんはいやなときはなく(泣く)。だけど、リレーのときはなかないし、いっしょにはしるからだいじょうぶ」と、ひとりが手を繋ぎ、あとふたりが囲みながら四人で走りました。子どもはすごいです。
 闘争心がある子も大事。けれど、闘争心だけが大事なのではないですよね。みんなが気持ちよく参加できることの方が大事ですものね。なにを大事に運動会をやるのか、子どもたちから宿題をもらった気分です。
 今回いちばん出たがり、競いたがり、ありったけを燃焼したがっていたのは小学生でした。しっぽとりやリレーをやったのですが「もう、一回やらせて」としつこくまとわりつきます。とうとう小学生のリレーは二回やりました。
 さらに、すごかったのは親たちです。今年はいつもある騎馬戦はやめてしっぽ取りをしました。思いかけないハードな種目となりました。個々のしっぽを取り合うという至ってシンプルなやり方でしたが、すごい! 最後まで残ったお父さん、相手と向き合いながらも、股の下からしっぽを捕った! おー!と歓声。
 子どもは比較的穏やか、小学生やおとなたちは日頃のモヤモヤをありったけ吐き出した運動会となったのではないでしょうか。たのしかったです!  (10月11日 記)

 

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