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 今回も乗り物ばなしです。
 最近、東海道新幹線の「のぞみ」ではなく、たまに「ひかり」や「こだま」に乗ります。
 はじめは遅いうえに、駅に止まると3分、5分と停車することにイラッとしましたが、そのうちそのスピードに身体が馴染んでいきます。
 富士市あたりは煙が見えます。そうでした、製紙工場があってここにくると独特の匂いを感じたものです。その匂いを高校生の時に熊本の八代でも感じ、大きな製紙工場があるのを知りました。パルプが紙になるときの匂いなのでしょう。匂いって記憶に残るんですね。
 静岡には幼いとき母と東海道線でいきました。そのときは、なんと汽車でした。トンネルが多く、その度に「窓を閉めて!」と言われました。煙が入るからです。なんだか生きている間に時代はこんなにも変わってきたことを実感。
 掛川はお茶の名前で知っています。駅前にお茶のお店が見えます。甥の妻はここが実家。この景色の中で伸びやかに育ったのかしら? そんなのどかな景色です。
 浜名湖に父と姉と来たときは、湖で泳いだ!
 こんなふうに脳に隙間ができて、いろんな記憶が蘇り、それなりに楽しくなってきました。早くて便利から少しゆっくりに戻すのもいいものです。
 『君の声が聴きたい』(双葉社)で、「スマホのない時代に戻りたい。ただ公園を走り回るだけで楽しかったのに」という子どもの声が載っていました。共通する思いかもしれません。
 話は変わり、今度はJRの普通の電車でのことです。
 その電車には40分近く乗るので、張り切って優先席を目指しました。三人掛けの真ん中が空いていたので座りました。私の後からベビーカーの人が乗ってきましたが、空いていなかったのでドアーの近くに立っていました。親子とも車内に向いています。2歳前後くらいの子はコンビニのお握りを食べています。上手にセロファンの上から手に持って、でも、最後の一口がポロッとわれてしまいました。上手に指で摘まんで口に入れ、空になったセロファンを黙って母に渡しました。その間もその後も母はスマホ。子どもは暇になりましたが景色もみえないので、視線は私に。笑顔を作るわけでもなく、なんとなく顔を合わせていました。
 そこへ、もう一組乗ってきました、夫婦とベビーカーに乗った赤ちゃん。みんな優先席を狙うのでしょうが、ベビーカーが並ぶと、老人が降りるときは難しい。ひとつ席が空いて妻が座りました。夫も妻も手にスマホ。子どもより大事な用かしらと、覗いてみたらゲームでした。あかちゃんは蓑虫のようにダウンの袋に入れられています。そのうちもう一席が空いて、夫が座ります。妻はメール、夫はゲームしたまま二人とも無言。やがて子どもがぐずり始めました。そりゃあそうでしょう、20分もベビーカーの袋の中で身体を動かせないのですから。夫がトントンと蓑虫の上から叩きました「つかれたね」って。私としては同じ体制のままなので身体が動かしたいか、ダウンが暑いんじゃない? 子どもたちはなにも言えず、静かにしているのですから偉いというかお気の毒というか。子ども連れの人がこんなに子どもの顔を見ていないことにびっくりでした。我が子の顔が見られるようにベビーカーの向きを考えて、愛おしそうに眺めるなんてことはあり得ないのでしょうか? 単に私の願望なのかしらね。せめて景色を楽しめる位置にするくらいはしてほしいと思いますけど。抱っこやおんぶの時代は大変だったけど、もう少し、子どもの気持ちが伝わりやすかった気もします。
 最後はいい話です。
 甲府に向かう特急あずさです。片側二席ずつです。私は窓側をとっていました。通路側は欧米の方でした。反対側の通路側も夫らしき欧米人。窓側は日本人。私が会釈を交わして窓側に座ると、反対側の窓側の日本人の女性が私の隣に変わってきました。二人を案内しているガイドさんだと勝手に決めつけていました。その人が「眩しかったらブラインド締めて結構ですよ」と、私に話しかけてきました。「私は景色を見たいのでいいのですが、あなたは眩しいですか?」と聞くと「私はまったくだいじょうぶです」との返事。こんなふうに声をかけてくる人はめったにいません。その人は英会話の本を読みながら、スマホでも調べています。ガイドだと確信をして「あの方々のガイドをなさっているんですか?」と聞きました。「え! 私ただの一般人です。折角なのでお隣同士にしてあげたいと思って席を変えました」。甲府で降りるので(私も同じだったので)、他の人がその席に来たときにどうしたらいいのかを伝えようと思って調べているそうです。やがて、彼女は何やら話して降りて行きました。その気のつき方に感心したことをお話ししたとき、その人が「私、古い人間なので」と言いました。三十代くらいの古い人でした。
 やっぱり声かけや気遣いは、古かろうが新しかろうが、人を心地よくしてくれますよね!(2月13日 記)

                                  

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