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111 2024年度の5歳児の卒業式を終えました。
 胃腸炎が流行っていてヒヤヒヤしましたが、全員出席できました。
 日頃暖房も冷房も関係ないように窓も入り口も開けっ放し、裸足で出入りしている野生児たちがいつにないきちんとした格好で来ました。馬子にも衣装なんていったら失礼ですが、それなりに品が良くなります。いざというときには対応できる子どもたちってことでもありますね。始まる前に子どもたちに聞いてみました。「小学校に行くのにワクワクしたうれしい気持ちと、ドキドキする心配な気持ちと、シュンとした嫌な気持ちと混ざっていると思うんだけど、どの気持ちが一番大きいかしら?」って、手をあげてもらいました。ワクワクの子は半分以上がうれしそうに手をあげました。ドキドキも三分の一くらいの子の手が上がりました。
 シュンはひとり手をあげました。
「どうしてか話せる?」と聞くと、「せんせいにおこられて ろうかにだされる」と答えました。

 兄二人がいますから、そんな情報も流しているのでしょう。子どもたちはまだ知らぬ世界に旅立ちます。親やきょうだいからの情報や、ランドセルやペンケース、上履きなどいろんなことから想像と期待と不安をもっていきます。おとなも然りですね。初めてのことには、情報から推測し、覚悟を決め、勇気を出してエイ!と一歩前に踏み出す。行ってみないとわからないのが事実。だから、卒業式は背中をトンと押す日でもあります。
 例年のように前に出て、あそびつけてきた跳び箱の上に乗り、修了証書をもらって自分の歌を披露される。という一連の繰り返しが、24人の卒業生分繰り返されます。今年も保育者が時間をかけて詞をねり、曲をつけて完成しています。世界にひとつ自分だけのうたです。その子らしい曲になっていますが、初めて聞くのですから、子どもたちは狐につままれたように固まっています。「気に入った?」なんて聞くのは愚問でした。なにをうたっているのか、詞が思い当たるかどうかなんて、聞こえていません。みんなの前に立って、固まってじっと歌を聴いてる、それだけです。
 この繰り返しで1時間半程度。じっと座っていたのですから立派です。自分の番が近づいてくると、そわそわする子、笑っちゃう子、ふざけたくなる子はいますが、前に出てきたとき、ひとりで立っていることが不安で、おとなが支えたり手を繋いだりする必要がある子はいませんでした。ちゃんと自分で自分を支えられている姿にたくましさを感じました。
 今年度はきょうだいの下の子が多かったので、親たちは7年、9年間通った方もいて、うれしさと同時に感慨深そうでした。なので、式の後も母たちはお茶会や宴会をしておしゃべりに興じました。コロナ以来の久しぶりの会です。やっぱり子どもの育ちを共有してきた仲間がいるのは、これからの心強さにもなりますよね。
 りんごの木は三月の保育終了の日は、それぞれのクラスで「大きくなったね」の会がされます。3月14日は小さい2,3歳児のクラス、15日は親子クラスの一歳児、17日は卒業していく5歳児の親の会、18日は週一回の2歳児、19日は親子クラス1歳児のグループ、そして20日5歳児の卒業式と、毎日最後をめぐっていた私です。どの子も四月と比べるととんでもなく大きく育っています。体つきも顔つきも違います。それだけではなく、どのクラスも仲間としての育ちが大きいです。気心知れた子どもとおとなになっています。保育時間最後に30分程度の会ですが、親も一緒に子どもが大きくなったことを喜び、これから新しい事が始まることの気持ちの切り替えにはいいことだと思いました。子どもの一年の成長は大きいですから、流されずにひと区切りを意識するのは大事なことかも知れません。

 卒業式を終えた頃、卒業生の群れがやってきました。19歳の子どもたちです。「だれだ!」と言われたって、でてきません。じっくり見ていると目が! そのうち「変わっていないね。きれいになったね」となるのですから不思議です。みんなでご飯食べに行くそうです。
 ひとりの子が「ぼくね、いまはりんごの木でよかったって思っている」と、私に声をかけてくれました。高校生の時にいろんな事があって「りんごの木に来なければよかった」と言われた子です。小さいときにちゃんと訓練を受けていれば、違ったのではと悩んでいたのです。「りんごの木のときはあなたはちゃんと輝いていたよ」「それでよかったと思っている」と写真と手紙を送った子です。いま大学生になっています。心からうれしかったし、安心しました。

 子どもたちの長い人生いろいろあるに決まっています。でも、そんなとき、自分を受け止めてくれる、まともに対峙してくれる人が必要です。そのひとりでありたいと願っています。  (3月21日 記)

                                  

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