庭に桜の大きな木が一本あります。
春休み、六分咲きになったかと思ったら、寒い雨が続きました。三寒四温のこの時期に開き始めてお気の毒だなぁと思いますが、めげずに日々少しずつ蕾みは開き、満開を迎えようとしていました。
この桜は私が高校生の時に生まれた姪が小学校に入学したときに学校からいただいてきた桜の苗です。当時は庭のある家に住んでいるのが当たり前だったのでしょうか、二歳下の甥の時は八重桜の苗をいただいてきました。
子どもたちも木もみごとにすくすくと育って、とうとう姪は還暦を過ぎました。
その間に住宅事情は大きく変わり、隣の家が隣接して建ち、根っこと、枝と、落葉が脅かしながらも育ち続けています。途中、我が家の水道管を壊し、掘り起こして通り道を変えました。今は隣との塀や家を持ち上げてしまうのではないかと、ひやひやしています。
それでも、春は花を楽しみ、夏になると大きな木がない住宅街に日影を作り、秋には美しく紅葉してと、同じ場所に佇みながら安らぎをくれています。人間ばかりではありません、どこからともなく鳥がやってきます。ヒヨドリというあまり美しい声とは言いがたい鳥が桜のつぼみをついばみ、ほかの鳥は蜜を吸いにくるのでしょうか。鳥たちは空の上から、自分の欲する物をみつけてくるのですからたいしたものですね。カラスもスズメもコンクリートで埋め尽くされた都会の隙間をみつけてやってきます。
しかし、ここ数年家族で論議される話題の主にもなっています。切るか切らないかです。部分的に枯れているところがあり、植木屋さんに処置してもらっています。桜はばい菌がつきやすいらしく、切り口から腐り始めるとどんどんやられて木が倒れるそうです。台風の時もお隣の家に倒れたら、どうなるかとヒヤヒヤします。そればかりではありません、倒れるということは、枝と同じ位の根が張っているそうなので、家も持ち上げられそうだからです。でも、でも、満開に咲いている姿を見ると、どうにも切るという勇気は出ません。ソメイヨシノは寿命が60年から80年らしいですのですが、どうやって寿命をまっとうするのでしょう? 大きな庭のある屋敷にもらわれなくて悪かったねという気持ちにもなります。
とうとう4月4日に満開になりました! この日は母の命日です。2005年でした。葬儀の日は桜吹雪で、桜が好きだった母は満足げに天に昇っていきました。
家も庭も家族の歴史を語っています。ともに一緒の時間空間を様々な思いを積みながら過ごしてきました。私はこの木より長く生きているけれど、こんなに空に真っ直ぐ伸びてきたかしらと思いながら見上げています。りんごの木は10日から新学期が始まります。私は77歳。入ってくる子どもは2、3歳。その差は広がる一方ですが、私にとってはなによりの栄養です。眩しい子どもたちです。 (4月5日 記)
●最近のバックナンバーはここをクリックしてください。
|