柴田 愛子    

パッチワーク=福島裕美子 
  


 9月23日の毎日新聞の一面に“「キレる小学生」突出”という見出しの記事が載りました。朝日新聞の一面も“公立小の校内暴力 先生相手急増”という見出しでした。文部科学省の公立校の調査の公表です。
 三面にも大々的に、子どもたちがどんなにひどい状況かが書かれていました。

「あら、あら、大変」と思いながら読み進んでいくと、前年度に比べて過去最悪18.1%増といった、パーセントでの表し方にちょっとひっかかります。
 03年に1600件だったのが04年1890件になった。つまり18%増。
 教師に対しての暴力が最も伸び率が高くて、32.8%増。件数になおすと、03年の253件が04年度は336件。83件多くなったということになります。
 校内暴力で警察に補導された小学生の数は、02年度2人、03年度11人、04年度24人で急ピッチに伸びているという事も書かれていました。

 数字というのは、どこか説得力があって、特に%表示でこんなふうに発表されると、かなりひどい状況を想像してしまいます。
 確かに増えていることは事実かもしれないですし、おとなたちが考えていかなければならないことなので、「大変!」と思ってもらえるような記事が有効なのかもしれません。
 けれど、子ども側からいうと、まるでひどい状況のような言われ方で気分が悪い。
 そんなに今の小学生は荒れているのだろうか。

 いったい小学生は全部で何人いるのか、調べてみることにしました。
 平成15年総務省統計局の調べだと720万人だそうです。
 そうなると、キレる小学生1890件は、だいたい0.026%、つまり1万人に2,3人の子ども。
 1000人規模の小学校の10校のうち2,3人くらい。
 教師の暴力をふるったのは、336件だから0.004%ということは、10万人に4人ということになります。

 考えているうちに、これは多いのか少ないのかは判断できかねる気がしました。%で表されたのを読んだときほどのショックは薄らいできました。ただ、段々に少しずつ、子どもたちの状況がよくなくなっていることは、確かかもしれません。

 もう一つ引っかかるのは校内暴力の内容で、子ども同士の暴力がいちばん多く、992件という発表です。
「けんかのきもち」の作者としては、絵本に書いたようなけんかはこの数字にはいることになるのだろうなぁと思います。
 でも、小学生だって、まだまだ身体でコミュニケーションのほうが取りやすい野生児は、いっぱいいるんじゃないですか?
 健康的なけんかも、いじめも、なにもかもひっくるめられて「子ども同士の暴力」と言い切られてしまうのでしょうか。
 現に小学校の廊下には「けんかはやめましょう」と貼られていたり、「けんかはしない」というルールもあるようです。そして、「子どもの規範意識(道徳、ルール、マナーといったこと)を、どう高めるか」ということに教師は頭を悩ましているのも事実です。

 この記事に専門家の意見が出ていました。
「感情をコントロールする訓練が必要」という専門家もいれば、「おとなの期待から子どもたちのストレスや緊張が高まっている」「家庭内暴力と関係している」という人もいました。
 幼児教育や子育て支援に関わっている私の個人的な見方では、2、3歳の自己中心的な自我が出るときに、地域や住宅事情、母親の人間関係、集団教育などで自我が抑えられている子どもが多くなっているように思います。
 文句を言われない子育て、迷惑をかけない子育てを懸命にしていることが、子ども自身の心が感じ、揺れ動き、人の気持ちに気づく段階を奪い取ってしまっているのではないでしょうか。

「おとなに言われたルールを守ることが正しいこと、いい子」と、けなげに、利かないブレーキを必死で踏んでいる乳幼児時代を過ごしているように見えます。肝心なことを学ばないで大きくなっていった子どもたちの、ひとつの現れでもあるのではないかと思います。
 子どもは未熟なおとななのではなく、人としての発達途上にあることを考えながらの育て方(教育)が必要なのではないでしょうか。
 文科省の報告が、より強い「子どもへの管理」にならず、年齢に応じたおとなの配慮、見守りにつながってほしいです。
 おとな社会を棚に上げて、子どもの育ちを語り合うことはできません。子どももおとなも、キレることなく、穏やかに過ごせる社会にしたいものです。
 まずは「今の子どもはこわいねー」なんてセルフは言わないおとなでいましょうネ。(9月25日記)
 

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