柴田 愛子    

パッチワーク=福島裕美子 
  

 運動会をしました。
 23日の文句なしの秋晴れの前日、雨がしょぼ降る中。天気予報の「午後の降水確率20%、徐々に日も差すでしょう」を信じて決行。
 空の黒い雲にみんなで息を吹きかけても、携帯の天気予報はすでに「都筑区0%」と言ってるのに、パラパラ降ってくるんですから、雲もしぶとい。
 やっと、天気が回復したのは午後の2時、運動会が終わった3時ごろは、「さあ! いまから運動会始めようか!」と言いたいくらいの天気でした。
 私は常々、晴れ女と言われています。ですから、晴れると「やっぱりね。私が晴らしました」なんて威張っていますが、雨になると「天気予報って、当たらないのよね!」と怒っているのですから、ほんとにいい加減なものです。

 さて、運動会にドラマはつきものです。リレーでのドラマを一つ紹介します。
 4、5歳児混合で二つのグループに分かれています。グループ対抗です。
 走る順番を、子どもたちと相談します。
 一つのグループは「始めに早い人を続けて差をつける、中はちょっと遅めでもよく、終わりにまた早い子にして追い上げる」という作戦を、アンカーを勤めたサーちゃんが考えました。

 3日前の公園での練習のときのことです。このチームにはダウン症のみっちゃんがいます。彼女はこのところ、足がとってもしっかりしてきて、よく走ります。人柄もかわいくて、好かれています。ところが、リレーで自分の番が来ると、しゃがみ込んでしまうのです。ウンともスンとも言わず石のようになってしまいます。「みっちゃん、はしるんだよ!」と声をかけると、目までつむってしまいます。彼女は、頑固です。
 もう一方のチームは、どんどん走っています。どうしたものかと思っていたとき、みっちゃんをとてもかわいく思っているしょうこちゃんが、説得に入りました。でも動かないみっちゃんを、彼女は思わず抱いて走ってしまったのです。
 しょうこちゃんの首に手を巻き付け、みっちゃんはうれしそうに抱かれて、一周したのです。

 みんなで相談です。みっちゃんをどうするか。
「みっちゃんは、自分で走らないんだから、リレーはやめてもらえば」と言ったのは私。
「みっちゃん、きんちょうしちゃうんだよ」と、けいくん。
「はしりたいか、はしりたくないか、わからないじゃないか」
「はしったほうがいいにきまってる」
「はしらないのは、ずるい」と言う声。
 しょうこちゃんは「あいこさん、なにいってんの」と、にらむような目をしましたがしばらく考えて、
「みっちゃんが、もし、ほんとにやりたくなければ、やらなくてもいい」と言いました。
 でも「しょうこちゃんに抱かれて走ったとき、みっちゃんはうれしそうだった」と言う発言で、みっちゃんも参加させようということになりました。
 さて、どうやって……。

 子どもの意見です。
1.アメを見せて、走らせる
2.みんなで囲んで走る。(いつも、みんなと一緒のときは走るからです)
3.抱っこリレー
「抱いて走る」と言う意見に、しょうこちゃんが、「もうあれはだめ、てがしびれて、いたくなっちゃう」と言いました。みっちゃん、重いんです。それで、抱っこする人を複数にして交代するという意見です。
4.バギーに乗せて押す
5.段ボールの底の一部に穴を開けて足を出せるようにし、自分で走りたいときは穴から足を出し、走りたくなくなったら座ってもらって他の人が押す

 こんな方法が考えられました。そして、やってみることにしました。
 アメには、つられませんでした。
 みんなに囲まれても、だめでした。
 段ボールには、足を広げてしまい、入ろうともしませんでした。
 唯一、抱っこ走りだけを喜びました。
「もう、これっきゃない!」
 相手チームにこの方法をとることを伝えますと「ずるい」と言う声が数人から挙がりました。でも、いきさつを説明すると、了解してくれました。

 当日、リレーに出ることはそれほどプレッシャーではなくなったみっちゃんは、順番に並んで自分の番を待ちました。そして、自分の番になるとしっかり抱っこを要求し、サーちゃんにうれしそうに両手を伸ばし、抱かれました。
 交代要員のしょうこちゃんとまひちゃんも一緒に走りました。
 サーちゃんは、交代せずに、一周走ってしまいました。必死だったことと、みっちゃんの抱かれ方が上手だったこともあるようです。

 みっちゃんのおかげで、みんなよく考えました。
「みっちゃんがいるから、リレーで負けちゃう」という子がいてもおかしくないと、私は思っていました。それで、今回あえて「みっちゃんは、自分で走らないんだから、リレーはやめてもらえば」と持ち出したのですが、子どもたちは思ってもみなかったようです。言ってはいけない雰囲気があったようには思えません。ちょっと驚きました。でも、それは日頃みっちゃんを大事に思って接している保育者の姿勢が、子どもたちも伝わっているということかもしれないと思います。
 みっちゃんばかりではありません、ひとりひとりが大事と思って接している保育者の姿勢が、子どもたちの自然な振る舞いになったのではないかと思いました。
 うれしいことです。(10月23日 記) 

 

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