保育者の一人が子どもに「きもい」と言われて、ちょっとイヤな気持ちになったようです。
4、5歳の子どもがどのくらいの意味を知って使っているのか、その保育者が子どもたちのミーティングの時間の話題にしました。
意味を持って使っている子は「きもちわるい」「にあわない」と言いましたが、大半の子は、何となくの魅力と不思議な力を持っている予感、そして、自分が大きい人になったような気がするというニュアンスの言葉として使っているようでした。
その他にも「ださい」「むかつく」などと、私には気分の悪くなるような言葉が、すでに幼児まで使うようになっています。
子どもたちと話していくうちに、どうも「バカ」という言葉と同じように、使われ度が頻繁になっているような気がしてきました。
「バカ」も、言われて、決して気持ちいい言葉ではありませんが、どこか、「バカ」と言う言葉の方が許せる気がするのはどうしてかと思い始めました。
もしかして、聞き慣れているってこと?
ついこの前まで、私が聞き慣れていた悪口言葉は「バカ」「まぬけ」「どじ」「あほう」「おたんこなす」「どてかぼちゃ」
抑揚をつけて「バカ、カバ、ちんどんや、おまえのかあさんでべそ!」 指差しをしながら「あんた、ちょっと、みかけによらない、にっぽんいちの、くるくるぱー」なんていうのもよくやりました。
何の罪悪感もなく、言い放って逃げたものです。
子どもと悪口言葉は、切っても切れない関係にあるのかもしれません。相手をはやし立てたり、からかったり、ばかにして泣かせると勝った気になったり、ちょっとやりすぎて心が痛んだり、ホントにしょうもないことなのですが、いつの時代も子どもが通り過ぎていくことなのでしょう。
ドイツ人の子どもが、日本語がわからずにやってきたとき、まず覚えたのが「みてみて」と「でたー」(トイレから呼ぶ声)そして「バカ」だったと思います。あきれたものです。意味を知ってなんていうことなく、意味を感じてすぐにマスターするのです。
「バカ」と「きもい」は、私にとっては随分と違う言葉です。
「バカ」はストレートでイヤミがないけれど、「きもい」は冷めた白い眼差しを感じます。意地悪な感じもします。
でも、聞き慣れていないため? 使い慣れていないため? とも思います。
だって、すっかり使いこなしているお母さんもいて、その人の「きもい」という言い方は「バカ」ぐらいに何気なくスッキリしているのです。
言葉は流れものなのかもしれません。 私が二十代の頃「ホントー」という相づちが流行ました。
裏のおじいさんと話していたとき、合間、合間に「ホントー」と入れていたら、おじいさん怒り出しちゃった。
「ホントという言葉はなんですか! それは嘘かと疑っている意味にとれます。そんな使い方はやめなさい!」 それで素直にやめる私ではありませんでした。だって、私はそんな意味に使っていたわけではありませんでしたから。
「おじいさん、私の使っているホントーはね、疑っているということではなく、感嘆詞なのよ。あら、そうとか、なーるほどとかという言葉と同じなの」と返したことを鮮明に覚えています。
子どもたちの「きもい」「うざい」もそんなふうに馴染んで、私も使うようになるのでしょうか。
それとも、おじいさんのように「それは、やめなさい!」と言っていくでしょうか・・・・。
うーん、今のところ「やめて!」って言います。
ちなみに「バカ」はサンスクリット語で無知、迷妄を意味する「baka」「moha」の音写「莫迦」(ぼくか)「募何」(ぼか)が転じたものだそうです。鎌倉時代末期から「ばか」の用例があるそうです。長い間、すたれずにみがかれてきているのですからすごい言葉です。
「きもい」は気持ち悪いの略で、見た目の気持ち悪さに使われるそうです。1970年代後期にすでに存在、使用頻度が増したのは90年後期からだそうです。まだまだ、日が浅い。さーて、バカのように生き残っていくのでしょうか。(12月19日 記)
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