柴田愛子

「ゴリエ」って、ご存じですか? 
 女装した男性が数人の女性とチアーダンス をするのです。
 私は、一度くらいテレビで見たことがあります。
 結構ハードでテンポも速く、かっこいいです。
 その「ゴリエ」のダンスを、お母さんたちがやっています。身体を動かすのが好きなりんごの木のスタッフの一人が声をかけ、毎週、練習していました。徐々に仲間が増えてきて、盛り上がっていました。
 みんな子ども連れですから、子ども同士は隅であそんでいたり、踊らないお母さんが託児を引き受けてくれたりしながらやってきました。もともと、楽しみでやっていることでしたが、せっかくだし、発表の場がほしくなったようです。

 その発表の場が、ありました。
 3月4日の土曜日、4、5才児だけの運動会をしたのです。近所の公園のグラウンドを借りて、秋の運動会よりはのんびりと…。子どもたちが種目を10個くらい決め、やりたいこと・出放題の運動会です。小学生も小さい子も大人も出放題です。幸い、天気もよく暖かい日でした。
 このプログラムの一つに、「ゴリエ」のダンス!
 すごいです! 
 12人のお母さんたちが、ズボンの上に黄色やピンクのピカピカスカート。上半身は白いシャツ、手には手袋? いや、軍手にリボンが着いているのをはめて登場です。
 音楽に合わせて、キビキビ動きます!
 あ、隊形が変わりました!
 三角から四角、そして、一列に並びました。ラインダンスみたいです! 
 最後はなんと、2人の腿に一人が上に立ちました。
 その前には開脚しているふたり、さらに左右から登場したふたりが側転をして交差していきました。
 もう、なんて実況中継していいかわかりません。
 お母さんたちの前にしゃがんで見ていた子どもたちは、目が点。大人もキョトキョトして、キツネにつままれたように呆然、あっという間のできごとでした。
 終わって2、3秒後に拍手と同時に「アンコール」の手拍子が始まりました。私もしました。
 だって、側転している人を見ていたもので、高く持ち上げられている人に目がいかなかったのです。もう、焦点をどこにあてていいかわからないままに終わってしまった感じだったのです。
 しばし息を整えて、アンコールに応えてくれました。

 

 今度は、少し後ろに下がって、全体を見渡すことにしました。
 まあ、スタッフのえっちゃんはキラキラしています。みうちゃん、りおちゃんのお母さんは、目が輝き、はじけとびそうです。きわちゃんのお母さんは、3人目がまだ乳飲み子。母の顔ではなく、若い女性であったことを思い出させられました。ゆりちゃんのお母さんのこんなまじめな、真剣な顔は見たことがありません。なおやくんのお母さんは、いちばん上の子は大学生、きれいな横転でした。余裕のある人ははじける笑顔、必死な人は口をぎゅっと結んで、もう、12人とも、いつもと違うお母さんでした。
 子どもたちの感想は「かわいい!」「じょうず!」「すごい」でした。

 話を聞くと、練習に毎回全員がそろうことはなく、それぞれがDVDを見ながら自宅練習をしたそうです。
 集まっても、赤ちゃんをおんぶしていたり、途中でおっぱいあげたり、子どもが泣いたり、それはそれは大変だったけれど、楽しい日々だったようです。
 泣く子を突っぱねてでも、夢中になるものがあってもいいですよね。
 子どもも、始めはぐずぐず言いますけど、だんだん、踊っているときはダメだとわきまえるようになります。お母さんたちが夢中の間、子ども同士肩寄せ合い、仲よしになったようです。

 この日、親たちの馬跳びもありました。騎馬戦もありました。リレーもありました。
 親が子どもをながめる日でもあり、子どもが親をながめる日でもありました。
 親たちのすがすがしい姿、迫力ある姿、競う姿、子どもの目にはきっと輝いて写ったと思います。
 いつもと違うお父さんやお母さんの表情をみて、きっと、もっと大好きになったでしょう。「おとなになりたい」とも、思ってくれたかもしれません。 (3月5日 記)


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