柴田愛子

 2歳児クラスのお母さんと話していました。
 2歳児といっても、もう満3歳ですけどね。

 Aちゃんはとっても元気で、おしゃべりで、かわいいパワーの塊のような子です。私たち保育者にとっては、とても面白くて楽しい子なのですが、お母さんは大変そうです。ときどき、へたばってしまいそうになってやってきます。
 先日、親子で電車に乗ったとき、大きな声は出すし、ねそべっちゃうし、もう手に負えなくて、ヘトヘトになってしまったということでした。怒ってもやめてくれないし、とうとうお母さんは、周囲の雰囲気に絶えられず、寝たふりをしてしまったそうです。
 あらあらと、笑っちゃいましたけれど、本人は辛かったようです。

 あー、と思い当たります。
 電車や公共の場で、腕白な子を抱えているお母さんに、「子どもを注意しない!?」と腹を立てている、年配の子育て卒業組の人たちの話。「平気で寝てる親もいるのよ」という言葉。
 あれは、平気じゃなかったのね、もう、どうしようもないから目をつむることしかできなかったんだ、と妙に納得してしまいました。
「でも、やっぱり叱るべきよ。できなくても、叱り続けるべき。だって、いけないんだから」
「他の人の手前もあるから、乗っているあいだじゅう叱ってる」
「私は仕方ないから、よく途中下車する。降りて、言い聞かして乗ると、また、だめ、の繰り返し」
「だから、どうしても車を使うようになるのよね。子どもができてから、車に乗るようになった」
 皆さん、いろいろ考えたり工夫したり、苦労しているようでした。

「迷惑かけるのは、いや?」と聞きますと、
「だって、ずっと、私自身が、人に迷惑をかけてはいけないって、教えられてきたでしょう。だから、子どもだって、迷惑をかけるのはいけないと思っている」
「叱って、子どもはできるようになるの?」
「怒っても 怒ってもできないの」
 子どもがチャンとできなくて、迷惑をかけているということに、母親の気持ちは萎縮している気がします。
「子どもはまだ発展途上にあって、今はまだできないことがたくさんあるの。だから、迷惑かけるものなのよ。子どもってのは、そんなもの」と言いますと、
「そんなこと、初めて聞いた」と言います。
「子どもは迷惑かけても仕方ないなんてこと、りんごの木に来てはじめて聞いた。そうなの?」と、戸惑いながらもちょっとホッとした様子です。
 迷惑はだれだってかけたくないでしょう。周囲の視線は痛いほど感じますから。
 でも、どうにもならない。そんな子どもとの戦いに疲れている人も多いのです。そして、子ども自身も、どんなにパワーがあったって、気持は疲れてしまうに違いありません。

 話しているうちに、
「でも、不思議よね。よその人に注意されると、子どもって、静かにしたりするのよね。どうして? できないわけじゃない? でも私だって、真剣に怒ってるのに・・・」
 そういえば、私がよその子がちょろちょろしているから「ダメ!」って怒ったりすると、泣きそうな顔になりながらも、やめたりします。
 そうです。親の「手に負えない」ことは、親の「手にあまる」ことなのです。「手にあまる」ことは 「人の手を借りる」のがいいです。
 みんな、自分だけでなんとかしようと頑張って子育てしているのです。手の借り方を考えてみましょう。

 そして、私とおなじ世代の人は、みなさん、そんな時期を通り過ごしてきたのでしょう。気楽に手を貸していくようにしましょう。うるさいおばさんにならない方法でね。それが、なによりの子育て支援じゃないでしょうか!
(3月12日 記)


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