二人が向かい合って、なにやらもめています。
ひなたちゃんの持っているイヌのぬいぐるみを、はるひちゃんもほしいようです。イヌはあっちに行ったり、こっちに行ったりし、とうとう、ひなたちゃんの手の中に納まりました。
はるひちゃんが泣きます。ひなたは恐い顔でじっと見ています。
「はるひ、あのイヌがほしいの?」
コックリうなずきます。
「ひなたもほしいから、貸してあげられないの?」
こちらも、うなずきます。
「もうひとつあったら、よかったのにねー」と言いながら、人形やウサギのぬいぐるみを持ってきてみましたが、だめです。
「こまっちゃったね」と、ほっときました。
そのうち、ひなたちゃんはちょっと違うあそびに気がそれて、うっかりイヌから手を離してしまいました。はるひちゃんは、そーっとイヌをつかみ、自分の背中に隠しました。ところが、気づいたひなたちゃんは、無言でつかみかかります。
また、一騒ぎです。
ひなたちゃんは、無言・無表情ではるひちゃんの腕をぎゅーっとにぎります。はるひちゃんは後ずさりをし、イヌはひなたちゃんの手にもどりました。
このてんまつを見ていたしおりちゃんが、これまた無言で、自分の持っていた人形をはるひちゃんにあげました。
「よく気がついて、うれしいこと」と私は思いましたが、はるひちゃんは受け取りません。あのイヌがいいのです。
ところが不思議なことに、それを見ていたひなたちゃんは、イヌをはるひちゃんに渡したのです。はるひちゃんは喜びました。でも、それだけではなく、粘土で上手に作ったお団子もあげようとします。
はるひちゃんは、それはいりません。
でも、ひなたちゃんはどうしてもあげたいので、腕をつかみ、無理矢理手のひらを広げ、のせようとします。はるひちゃんは手を拳に握り、ギャーと泣きながら、いやがっています。
「ひなた、はるひのこと、好きなの?」「好きだから、あげたいの」と聞くと、こっくりうなずきました。でも、はるひちゃんは、粘土の団子をどうしても受け取りません。
「ひなたは、はるひが好きだから、あげたいんだって」と言っても、はるひちゃんはイヤと受け取りません。
仕方がないので、
「じゃあ、あとで、はるひがほしくなるまで、私が預かっておいてあげるね。はるひがほしくなったらあげるから」ということで、ひなたちゃんに納得してもらい、いちおう収まりました。
しばらくしてお弁当の時間になると、また、ひなたちゃんは、はるひちゃんの隣にピッタリ。もう、はるひちゃんしか見えていないみたいです。
でも、なんと、お弁当の後、ひなたちゃんは、はるひちゃんの爪にサインペンでマニキュアを塗っているじゃありませんか。そして、はるひちゃんもうれしそうな顔をして、手を机の上に広げています。やれやれ、やっと、気持が繋がり始めたようです。
二人は早生まれの3歳児。新学期始まって一週間目の出来事です。
一連のやりとりに、会話はほとんどありませんでした。感情を態度で表現する、言葉以前の時代、行動でコミュニケーションをする年齢です。特定の子にちょっかいをだしたり、突き飛ばしたり、噛みついたり、わざわざ人の持っている物を取るのも、ラブコールの始まりということは多いものです。乱暴、いじわる、いたずらなんていうくくりで見ないようにしなくちゃいけません。せっかく、特定の子どもが見えてくる時期ですからね。
やられている(好かれている)ほうも泣いたり、反撃したり、逃げたりして自分を守りながら、ちょっとずつ相手の気持ちを受け入れていくのです。人と人の繋がりをお母さんの手を借りずに作っていく、人生初めての体験をしているのです。(4月23日 記)
写真=はるひちゃんとひなたちやん。先週のHPトップの写真キャプションで「ふたりは幼なじみ」と書きましたが、りんごの木でこの春出合ったばかりでした。訂正します。
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