柴田愛子

●フラワーアレンジ  
   アトリエ レ・ポンム


 夕方、近くの公園を通り抜けようとしていたとき、子どもの泣き声が響いていました。ちょっとのぞいてみました。
 泣いている1歳後半くらいの子どもを、母親がしゃがみ込んで抱えています。
 もう一人の少し身体の大きい2歳くらいの子を、その子のお母さんが、抱え込んで言い聞かしています。
「押したら、だめでしょう? ほら、泣いているでしょう? いやだったのよ。ちゃんと、誤りなさい」と、それは根気よく説得しています。
 おとな二人がしゃがんだ大きな身体の中に、包まれるように、二人の子が対面していました。
 大きい子が小さい子を押して、尻餅でもついたのでしょう。
 どうして、これだけの出来事を、いちいち子どもに解説し、説得し、謝らせ、反省させなければいけないのでしょう。
 片方が押したことに、「いやだった!」「こわかった!」「びっくりした!」と、押された本人が泣くという表現で訴えているのですから、「いたかったわね。ごめんね」ぐらいですませられないのでしょうか。

 りんごの木で、2歳4か月のあっくんが、ピアノを叩いている女の子をじっと見ていました。じっと見ていたかと思ったら、あっという間に、その子の手を噛んでしまいました。痛いよりビックリしたのでしょう、女の子は泣きました。
 私が駆け寄って、
「噛んじゃダメ!」と、あっくんをにらみました。すると、あっくんは、
「もっとやさしくね。かんだら、いたいでしょう、だめよ」と、まるでおとなの口調で、セリフのように言いながら、私の顔を見ます。たぶん、噛んでしまったときに、お母さんがそう言い聞かすのでしょう。
 そのあと、公園に行きました。
 あっくんは、ブランコに乗っている子をじぃーと見ていました。と、思ったら、まるでアヒルのように顔を前に突き出しト、ト、トッと、ブランコに乗っている子をめがけて駆け寄り、つかみかかりました。
 乗っている子は泣きました。あっくんは思いどおりにならないことと、わかってもらえないくやしさで、詫びるどころか、ムッとしていました。
 自分も乗りたかったのです。
 ブランコが空くのをいっしょに待ち、一人では乗れないので、私が膝に抱えて乗りました。
 もしかしたら、あの子みたいに乗れるかも・・・と、意気込んでいたのかもしれません。
 じっと見ていて、自分もやりたくなるのです。
 でも、「かして」「つぎやらして」「じぶんも」なんて言う言葉はでてこなくて、身体で言ってしまうのです。
 これが、2、3歳ごろの、言葉で表現できない子の当たり前の姿だと思います。
 やられてしまう子も「きゅうにおしたら、びっくりするじゃないの!」「やめてよね!」「かまないでよ!」という言葉での表現ができないから、泣くという身体の表現で、相手に訴えているのです。

「うちの子は、すぐに押し倒したり、ぶったりしてしまうのです。ダメときつくしかっても、繰り返します。どうしてなのでしょう。公園に行くのも気が引けて、どうしたらいいのでしょうか」
 こんな相談を山ほど受けます。
 みんな、暗い表情で涙ぐんでおられます。まじめに一生懸命育てているのに、親も子も辛いのです。

 どうも、お母さんたちは、身体での表現を受け付けられないのではないかと思いました。
 どうしてでしょう。
 女は言葉が比較的達者であるから「言えばいいじゃない」「言わなきゃわかんないでしょ」と、言葉を頼りことが当たり前になっているからでしょうか?
 女性は争い事が嫌いで、なるべくトラブルを避けたいからでしょうか?
 母性は子どもを守ることを第一にするからでしょうか? 
 そう言えば、「子どもにけんかはつきもの」「子どもなんて、けんかするものさ」「けんかするほど仲がいい」という言葉が聞かれなくなってきたように思います。
「相手に怪我でもさせたら」という気遣いも、過敏とも言えるほどになっていると思います。
 ひょっとして、母親だけが育児をするようになってきてからじゃないでしょうか?
 思い起こしてみると「チャンバラごっこ」「戦いごっこ」「けんか」と、確かに男の子のほうが好きです。
 じゃれあいあそびも得意です。
 友だちになるために、わざわざちょっかいを出すなんて日常です。
 はっきり決めつけてはいけないでしょうが、母親ひとりで子どもを育てるのはやっぱり不自然です。
 両親そろってということではなく、異質な人間が関わることで、親も子どもも風通しがよくなるのではないでしょうか。
 いろんな大人の中で、いろんな子どもがいることが受け止められるということです。
 子どものトラブルに過敏になっているお母さんたちを何とかしなければ、と思うこの頃です。(6月18日 記)

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