柴田 愛子                

 りんごの木では8日から三学期が始まりました。
 一学期の始まりのときは、緊張感に包まれてスタートです。二学期は長い休みの後で、子どもたちも保育者もやはり“ちょっと後ずさり”した感じがありますが、三学期は思いっきり楽しみです。
 子どもたちも親たちも「やっとはじまった」という表情で現れました。

「おめでとうございます」の挨拶は、子どもたちは苦手。
 なにか、慣れないこそばゆい感じなのでしょう。2歳児はお母さんの陰に隠れてしまったりします。
 私は「おはよう! 久しぶりだね」と、声をかけて迎えました。
 3歳児、来たと思ったら、仲良しの子とスッと手を繋ぎます。ニコッと笑顔をかわしていたりもします。
 安心しきった友だち関係です。

「かくれんぼをしよう!」ということになった子どもたち。
 まずはオニが保育者で、子どもらはみんな隠れます。
 次には保育者だけが隠れて、子どもらがオニです。大勢で声を合わせて数えます。
「いち、に、の、さんまのしいたけ、でっこん、ぼっこん、ちゅうちゅう、かもぼこ、でっこん、ぱ」
 いつも保育で使っている数え歌です。
 これを、声を合わせて、顔を見合わせながら、大きな声で唱えているのです。
 ただ、これだけのことなのですが、私の胸に迫るものがありました。この時期になると、もう、ちゃんと仲間なのです。声をそろえ合える、つまり気持ちを重ね合わせることができる仲間なのです。
 そして、「かくれんぼ」という、隠れたり見つけたりという、信頼し合っているからこそのあそびが楽しめるのです。
 初日が終わって、9日からいきなり三連休。「また休み」と告げたときの「えー!」と、がっかりする声もうれしくて、ほっとします。

 連休明けに4、5歳児の部屋をのぞいてみたら、さくちゃんとてるくんが、はさみ将棋をしていました。懐かしいです!
 もはや将棋盤がある家庭も少ないでしょうし、はさみ将棋をやったことがある人も少ないでしょう。
 だれが持ち込んだのかはわかりませんが、近づいてみていると、ちゃんとルールを教えてくれます。
 将棋をやりながら、さくちゃんが、
「ぼく、もう、いちばんぐみだから(年長児)」と言います。さくちゃんはまだ二番組(年中児)なのに。
「え?! さくちゃんはまだ二番組だよ。てるちゃんが小学校に行ったら、さくちゃんが一番組になるんだよ」と、将棋相手の一番組のてるくんを指しながら言うと、
「だって、おかあさんが、もうすぐいちばんぐみだって、いったもん」。
「だから、おかあさんのもうすぐっていうのは、4月のことで、まだまだなんだよ」と言いましたが、彼の頭は???
 その場は将棋を続行しましたが、帰るときになって、
「じゃあ、二番組の人から、さようなら」と保育者が言うと、さくちゃんが座っています。
「さくちゃんは二番組だから行くよ」と誘うと、
「ぼくはいちばんぐみ」と言います。
 また、さっきの続きです。
 こちらが、どう説明しても「だって、おかあさんが、もうすぐっていった!」と言い、怒って泣き始めてしまいました。

 帰り道、お母さんはさくちゃんに、泣きながら叩かれ続けたそうです。
 子どもに時間の概念を教えるのはほんとに難しい。
 だいたい、新年になると「もうすぐ、小学生ね」とか、4月からのことを口に出しがちです。
 学年始めが1月だったらわかりやすいのですけれど。
 さくちゃんの場合は、さらに誕生日が1月の半ば。もうすぐ5歳になる事実がなお混乱させます。
 4歳児とは、途中で5歳になるのに、年齢は大きくなるのに、年中児(二番組)のままなのですから、それも子どもには納得しにくい話です。
 三学期から保育室を変えたことも、混乱の一つだったようです。
 さくちゃんだけでなく、多くの4歳児がよくわかっていないことも判明しました。
 結局、保育者がカレンダーで、あといくつ寝たら一番組になるのかやったそうです。
「あと、77寝たら一番組」
 これが一番わかりやすかったようです。

 私たちは、子どもの口が達者なので、どうも、未発達であることを忘れがち。将棋のルールがわかっても、時間の概念は、まだ昨日、今日、明日がわかってきた頃なのです。
 ついうっかりのおとなの発言に要注意!ですね。(1月17日 記)

お知らせ
「浜名湖わくわくセミナー」2月13・14日(土・日) 
会場・浜松市雄踏文化センター 
講師・柴田愛子・新沢としひこ・谷口国博・中川ひろたか・長谷川義史
参加費・10000円 
お問い合わせ ?&fax054-641-9749 ピーマンズクラブ杉山まで。

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