柴田 愛子                

 2、3歳児と野毛山動物園に行って来ました。
 野毛山動物園は桜木町の近くにある、小さな動物園です。
 動物の種類もほどよく、小動物に触れることもできるので、幼い子どもには適したところです。
 32人の子どもと7人のおとなで行きました。

 年度末のいま、子どもたちは遠慮のない関係同士になっています。りんごの木では怖いものなし、といってもいいくらいの堂々とした一人ひとりです。
 ですから、たった32人といっても、勝手に動きそうな32人です。入る前に二つのグループに分かれました。
 が、入ったとたん、レッサーパンダのいる場所で、すでにばらばらの行動となってしまいました。興味を持って立ち止まった子と、サッサと先を急ぐ子がいるためです。
 どうも「ここは動物園」と思ってもいない子が多いようで、たったかたったか走っていく子、○○レンジャーになってしまった子が続出・・・もう、すでに私は後悔、動物園でなくてもよかった……。

 やっと、仲よし広場という、全員集合予定の場所に着きました。
 ここはハツカネズミ(写真)、モルモット、ニワトリとひよこが、柵の中に放し飼いにされています。
 入る前に、抱き方などを係の方から教えていただき、人も柵の中に入って触ることができます。
 説明を聞いているときは、みんな神妙に、目と耳を澄まして聞いています。こういうときは、32人の子どもはこんなに一握りなのだと思うほどに小さな固まりです。どうしてこれが、放し飼いになると、あんなに広がってしまうのか不思議なほどです。そして、柵の中に入ってしまうと、子どもたちはそれぞれに動物と向き合います。今回の動物園でいちぱんホッとしていられたときです。
 がむしゃらに動物を抱こうとする子、じーっと見ているだけの子、恐る恐る手を出しては引っ込めるを繰り返している子、ほほえましい光景でした。
 しかし、時間で出なければいけません。また、「放牧された」子どもたちを導かなければ行けません。でも、今度はお昼です。お弁当の時間はだいじょうぶ。みんなシートに座って食べます。

 食べ終わったかと思えば、もう、走っています。
「いっしょに、かけっこしよう!」と誘われて、私も走りましたが、終わりがありません。
「もう、いっかい」
「もう、いっかい」。
 子どもって、どうして動き続けるのでしょう。
 そうこうしているうちに、けんかが始まりました。あっちで「わーん」と泣いたかと思えば、こっちで「わーん」と泣く。立て続けに三箇所です。保育者はけんかしている子どもの通訳に走ります。
 やれやれ、やっと先に進むことになりました。

 フラミンゴやラクダ、キリンもいましたが、子どもが集中したのは、建物の中のワニ、カメ、ヘビ。
 わずかな塀のような坂を見つければ「おうちごっこをしましょう!」と言いだし「わたし、プリキュアのおねえさんなのね。すべりだいであそんでくるわ!」と坂の上に座り込む。もう、プリキュア集団に化しています。
 帰りの出口近く、最後のチンパンジーの前では、柵手前にあるコンクリート塀にお腹を乗せて、みんな下の溝を見ています。なんと、カエルの卵があったのです。たぶん、目の上にはチンパンジーがいたことを知っていた子は数人でしょう。
 無事に全員で帰路につきました。

 この年齢の子どもは、外という無限の空間の中で、どこかに焦点を当てて見ることはできないのでしょうか?
 どこに行ったって、子どもは自分のやりたいことが大事。自分が主役の王子さま、お姫さま。動物園であろうがなかろうが、その場に合わせた目的を持つなんてありゃしない!
 なによりの感想は、「動物園の動物に勝る動物を連れて行った」気がしました!(3月7日 記) 

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